「エボラ出血熱といかに向き合うか」── 感染症対策専門家に聞く感染の仕組みや予防対策
西アフリカで大流行し、世界的な感染拡大が懸念されるエボラ出血熱。感染阻止の戦いが続くが、致死率が40%~60%と高く、有効な治療方法は見つかっていない。関西では関西国際空港に降り立ったギニア女性が一時、感染の有無を確認する事態になったものの、陰性であることが分かった。防護服を着用した厳戒態勢の国際ニュース映像などから、感染阻止の緊迫度が伝わってくる半面、見えない敵に対する誤解や過度の恐怖感が独り歩きしかねない不安も募る。感染の仕組みや感染防止対策の背景を知ることで、不安が和らぐのではないか。大阪府健康医療部保健医療室医療対策課の田邉雅章参事(医師職・感染症対策担当)に聞いた。 [図]エボラ出血熱が流行している西アフリカ3か国の地図
エボラ出血熱は空気感染しない
──まず感染経路について。エボラ出血熱は、患者の体液などとの接触によって感染し、基本的には空気感染、飛沫感染はしないとされている。空気感染しないと聞くと、やや安心するが、エボラ出血熱が空気感染や飛沫感染しないのはなぜか。 せきやくしゃみをすると、口や鼻から水滴が飛ぶ。水滴が大きいと重力の影響を受けて、水滴は1メートルから2メートルしか飛ばない。大きな水滴の中に含まれる病原体で感染するのが飛沫感染で、代表例がインフルエンザ。小学校などがインフルエンザで学級閉鎖に追い込まれるのは、感染した児童が、発熱などの症状が出る前に登校して、感染が広がるのを防ぐためと、児童同士の席が近くて感染しやすいからだ。水滴が大きい飛沫感染に対して、小さくて軽い粒子状の水滴が、空気中をふわふわ浮遊するうちに病原体から感染するのが、空気感染。結核、はしか、水ぼうそうなどだ。患者から離れていても感染することがあり、閉鎖された部屋では室内にいる人たちの感染率が高くなる。飛沫感染も空気感染も、空気によって感染する点で共通している。 ──一方、エボラ出血熱は飛沫感染、空気感染はしないと。 病原体の性質が異なる。結核は肺が病巣なので、せきをすると、結核菌が肺からのどを経て飛んでくる。同じようにインフルエンザは、病原体がのどや気道の粘膜にいて、せきやくしゃみで空気中に飛び出してくる。 これに対して、エボラ出血熱は消化器官にもっとも多くのウイルスがいる。ウイルスにの活動によって、消化器官の粘膜がただれて出血する。患者は胃が荒れるとおう吐し、大腸が悪くなると下痢をする。その吐しゃ物や排せつ物に含まれるウイルスに接触することで感染する。 ──皮膚についたウイルスは、どのようにして体内に侵入するのか。 ウイルスは目、鼻、口などの粘膜と、傷口などの傷ついた皮膚からしか体内に入らない。人間は無意識のうちに指で顔にふれるため、手や指に付着したウイルスが顔の粘膜から侵入する。