16年間で約15倍に増えた発達障害だが…医師が警鐘を鳴らす、今増加する「発達障害“もどき”」とは
我が子の発達障害を疑う前に、確かめてみてほしいこと
ネットやSNSが発達している現代社会は、子育てするにあたって様々な情報を簡単に得られるという点ではとてもありがたい時代になったと思います。 【医師が解説】子どもの「発達障害」の受診を考えるなら…医療機関の選び方のポイントと注意点 しかし、調べているうちに、子育てにおいて、何が正解なのかが分からなくなってしまっていませんか? 自分の子どものためだと思って、色々と実践してみたけれど、いまいち結果に結びつかない…。 もしかして、良かれと思ってやっていたことが、子どもの脳を育てるためには逆効果だったなんて事があるかもしれません。 そんな“子育てにおける誤解”を小児脳科学者である成田奈緒子先生が詳しく解説した著書『誤解だらけの子育て』をご紹介します。 今回は「発達障害と診断されたら、一生治ることはない」という子育ての誤解について解説! 発達障害という言葉が一般化された今、そうではない子もその枠に当てはめられてしまう「発達障害もどき」が増えているのだそう。その見極め方と対処法は?
【誤解!?】発達障害と診断されたら、一生治ることはない
昨今、発達障害と呼ばれる子どもが急激に増えています。2006年時点では約7000人だったのが、2022年には10万人を超えています。途中から調査対象が広がったことを加味しても、16年間で約15倍に増えたのです(図)。 ●自閉症(ASD) 対人関係が苦手で強いこだわりがあるとされる発達障害 ●注意欠陥多動性障害(ADHD) 不注意、他動、衝動性が特徴とされる発達障害 ●学習障害(LD) 聞く・話す・読む・書くなどに困難が生じる発達障害 日本では2004年に「発達障害者支援法」が制定され、発達障害の早期発見と適切な支援が促されるようになりました。それによって発達障害という言葉が一般の人々にも浸透し、メディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。 全国に発達障害者支援センターが設置され、文科省による推奨のもと、学校の先生は発達障害に関する研修を受けるようになりました。こうして、例えば「すごく不器用な子」などは積極的に支援する必要がある、と考えられるようになったのです。 このように社会が大きく変化したことによって、これまで困難を抱えていた子の状況が改善し、誰もが適切な教育を受けられるようになったのは、非常に意味のあることでした。 一方で、少しでも手がかかるような子ども─それこそ立派な原始人までもが、すぐに「発達障害」という枠に当てはめられてしまうケースも、残念ながら増えているのです。 実際に、学校などから「発達障害ではないか?」と言われて子育て科学アクシスに相談にくるお子さんのなかには、医学的には発達障害の診断がつかないケースも数多くあります。これを私は「発達障害もどき」と呼んでいます。 発達障害もどきとは、大まかに言えば「発達障害の診断がつかないのに、発達障害と見分けがつかない症候を示している状態」です(あくまで私が診療を通して出会った子どもたちの症候を見るなかでつくった言葉なので、そうした診断名があるわけではありません)。 この発達障害もどきは、次の3つのタイプに分けることができます。 (1)診断はつけられないが、発達障害の症候を見せるタイプ 発達障害は「先天的な脳の機能障害」と定義されるため、生まれたときからの生育歴を診断基準に照らし合わせることで決まります。生育歴にはまったく問題が見られないのに、落ち着きがない、集団生活に適応できない、衝動性が高いなど、発達障害と類似した症候を見せるケース (2)医師以外から「プレ診断」を受けるタイプ 本来、発達障害と診断できるのは免許を持った医師だけなのですが、最近は保育士さんや幼稚園の先生、学校の先生から「発達障害では」とプレ診断を受けるケース (3)発達障害の診断をしたものの、症候が薄くなるもの 生育歴などから発達障害の診断がついたにもかかわらず、成長するにしたがって症候が薄くなるケース 「発達障害かも」と言われたとしても、これら3タイプでは、ペアレンティングによる生活・環境改善を通じて、症候が目立たなくなることが少なくありません。 例えば、(1)と(2)に当てはまる、4歳のAちゃんという子がいました。彼女は偏食がひどく、幼稚園ではお友だちを叩いたり暴言を吐いたりといった問題行動が見られました。そのため園の先生から専門機関の受診をすすめられ、相談に来られたのです。 Aちゃんの生活リズムを聞くと、前項のFちゃん同様、夜中に寝て朝ギリギリまで寝ているということだったので、朝7時に起きて、夜8時には寝つく生活に改善してもらいました。すると、3食のごはんをきちんと食べられるようになったのはもちろん、お友だちの輪に自分から加わるようになり、トラブルがなくなっていったそうです。 また(3)に当てはまっていた、中学生のS君の場合。彼は生育歴・行動ともに、医学的にも発達障害の診断がつく男の子でした。 歩くようになったのは早かったけれどハイハイをする時期がなかった、物の置き方や朝の行動の順番にこだわりがあるなど、乳幼児期から発達障害特有の生育歴がありました。また言葉の出が遅く、小学生になっても会話がスムーズにできないために周囲とのコミュニケーションに困難を抱え、ストレスから暴言や暴力が出ていたのです。 S君の普段の生活を聞いてみると、やはり家族そろって夜型の生活リズムだということがわかりました。 そこで家族一丸となって生活を変えていただくように指導したところ、6か月が経つ頃には、S君の問題行動はほとんど見られなくなっていきました。今では朝5時に起床し、近所を散歩してから朝ごはんをしっかり食べ、朝早くから学校に行って自主的に勉強しているそうです。これは、私の言うところの「発達障害だけど、それを表にしなくていい」発達障害もどきにあたります。 発達障害かもしれないと言われていても、正しい判断ではないかもしれない。また発達障害のような症候を示していたとしても、そして実際に発達障害であっても、古い脳から順に育て直すことによって症候を改善することが可能なのです。 「うちの子、発達障害かも」という気づきは、むしろお子さんとの暮らしを見直し、脳を育て直すチャンスです。 【巷で言われる発達障害には、生活リズムの乱れから来る「発達障害もどき」も。正しいペアレンティングで症候を改善することが可能】
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