思い出の服 時代超えつなぐ 「フロムクローズ」 活写2024
古着のタグにつづられたかつての持ち主の思い出の数々。「夫と食事に行くときによく着ていた」「海外旅行のために仕立てた」。あふれる思いを若者たちが受け継ぎ、新たな歴史を刻んでいく。「フロムクローズ」(大阪市西区)は〝ストーリーをつなぐ服屋〟だ。捨てるには忍びない大切な洋服を若者たちがおしゃれに着こなす。月に1度の譲渡会にはレトロで鮮やかな洋服が並び、多くの人でにぎわう。 【写真】フロムクローズで扱う鮮やかな洋服 8月に3周年を迎えたフロムクローズが扱う洋服は、ていねいに仕立てられた昭和から平成初期のものが多い。「素材、縫製、日本の繊細な手仕事や技術が詰まっていてデザインも個性が強い」と話すのは代表を務めるデザイナーの永井純さん(61)。 大量生産の洋服があふれる現代の若者には新鮮に映る。気軽に買えるようスカートやシャツは4千円、コートは1万円など価格を均一にする。 洋服の買い取りはせず、譲り受けた中から、質のよい服を選び販売し、売り上げは活動費に充てている。今までに2200着ほどを回収し、1300を超える思いが新しい持ち主に引き継がれた。 フロムクローズの開業は「80代の母の洋服を整理したいけど、私には似合わない服が多くて…」と、お客さんからの相談がきっかけ。家を訪れ、整理を始めると「着ないけど捨てるのは嫌」という一枚一枚の服にまつわる思い出を聞き、永井さんが引き取った。同時期に同じような相談が相次ぎ、共同代表を務める飯田貴将さん(27)や学生たちに話をすると「こういう服、私たちの年代は好きですよ」との答えが返ってきた。 試しに譲渡会を開くと、30枚ほどが売れ、フロムクローズ立ち上げの後押しに。以後、月に1回譲渡会を開き、ネットでも販売している。 「誰が着たのかわからないから嫌」と古着を敬遠する人でも、持ち主の人柄が感じ取れると手にする人も多い。着なくなった服は再び回収し次の主(あるじ)を待つ。 「1枚の服に時代ごとのいくつもの思い出が重なるのもすてきじゃないですか」と永井さん。常に循環し、廃棄を減らす理念は、環境問題に興味を持つ若者たちにも響く。飯田さんは「興味を持つ若者は多い。同じような取り組みが全国に広がってほしい」と話す。 似合う服をまとうと、自信がつき顔つきも変わる。永井さんはそんな若者をたくさん見てきた。ひとつひとつ丁寧に作られた洋服は、時代を超えて、現代の若者の個性を引き出していく。「ファッションの力はすごい。一瞬で人を変えるから」。新しい自分を発見し輝く人と服をたくさん見られることを楽しんでいる。(写真報道局 南雲都)