「冬に浴衣」「ポリの着物」「キラキラの複製」…観光客を当て込んで創造した「日本」では永遠にレベルアップは果たせない アレックス・カー×清野由美
◆文化の「稚拙化」 歴史的な文化や文化財を扱う人たちが、本来の意味合いを忘れて、観光客向けに安っぽいものを提供する流れを英語で「dumbing down」、つまり「稚拙化」と呼びます。 なお日本で稚拙化が引き起こされる原因は、インバウンドの増加だけではありません。 たとえば国や地方自治体、公共機関などが作る「マスコットキャラ」や「ゆるキャラ」。熊本県の「くまモン」の大成功が典型例ですが、今や日本全国どこへ行っても、キャラクターの笑顔に迎えられます。これはインバウンド向けというより、日本人を対象にした観光業の副産物といえるでしょう。 「ゆるキャラ」は駅前や商店街、遊園地といった繁華街で出会えれば、にぎやかで楽しいし、効果もあると思います。しかし歴史的寺院の山門や神聖な神社の鳥居の前、境内、美術品の横にまで「ゆるキャラ」を持ってくるとなれば、稚拙化に歯止めがきかなくなります。 日本での文化の稚拙化は、世界遺産に登録された場所でも、見受けられるようになっています。 京都の二条城ではオリジナルの襖絵を劣化から守るために、複製したものに差し替えて展示・公開しています。京都市のHPによると、襖絵の復元・保存は1972年から「二の丸御殿」で取り組まれています。 室町と江戸時代の襖絵はくすんだ紙の色、金箔に表われた「箔足(継ぎ目を重ねた部分)」、そして岩絵の具と墨の深い色合いによって、神秘的で瞑想的な雰囲気をまとっていることが特徴です。その雰囲気があるからこそ、鑑賞者は美術品が伝えられてきた年月に思いをはせ、深い感興を味わうことができるのです。 しかし近年、二の丸御殿で差し替えられた複製の襖絵は、岩絵の具の繊細な色合いが単調なものに、独特のくすんだ金色はキラキラ輝く派手なものへ置き換わっていて、それらが強烈なライトで明るく照らされています。外国から訪れた私の友人を二条城に案内したとき、彼から「ここは大きな土産物屋さんのようですね」といわれました。まさに二条城の「稚拙化」がもたらした感想です。
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