『モンスター』坂本愛登の陰影を帯びた表情 趣里が見せた両極端な涙
『モンスター』(カンテレ・フジテレビ系)第8話は強盗致傷事件。二転三転するストーリーは登場人物を手のひらの上で転がすように見えながら、その実、転がされたのは私たち視聴者だった(以下、ネタバレあり)。 【写真】“大阪のおばちゃん”に扮した趣里 一人暮らしの橘清美(石野真子)宅に少年4人が侵入した。留守を狙っての犯行だった。屋内を物色していると清美が帰宅。動転した谷口(林裕太)は清美を殴打し、怪我をさせて逃げた。検察の取り調べに、栗本(坂元愛登)は「闇バイトごっこだった」と答えるが、他の3人は口をそろえて栗本が組織のキングと呼ばれる男から指示を受けていたと供述する。栗本の両親から弁護を依頼された亮子(趣里)と杉浦(ジェシー)は、栗本に面会に行くが……。 第8話で取り上げたのは闇バイトだった。近年、若者が報酬目当てで犯罪の片棒を担いで検挙されるニュースが相次いでいる。背後には「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」と呼ばれる犯罪組織があり、インターネットで勧誘し、詐欺や強盗、違法薬物などの運搬を手伝わされる。指示役は捜査の手を逃れて行方をくらまし、逮捕されるのは何も知らない実行犯の若者たちだ。 ドラマはこのまま闇バイト組織の全容解明へ向かうかと思われたが、一筋縄ではいかないのが『モンスター』だ。栗本の両親は息子がなぜ犯罪に手を染めることになったか理解に苦しむ。そこには親の知らない子どもの姿があって、親子の断絶をまざまざと描き出すのだが、ポイントはそこではない。大規模な組織犯罪というのは検察が考えた筋立てで、谷口たちは情状酌量と引き換えに口裏を合わせて栗本に罪を着せていた。全てはキングを捕まえるためで栗本はダシに使われたことになる。 第8話のキーフレーズは「でっちあげ」だった。特殊詐欺の犯人は身分を偽り被害者の親族になりすます。検察は犯罪組織を検挙するためにありそうな構図をひねり出す。空虚さを抱えた若者たちがやってみた系の動画に触発される。こう言ってよければ全部でっちあげだ。その最たるものが清美だった。 なぜ事件当日、清美は犯人の後を追って家に入ったのか? 知人から5年前の写真を見せられ、清美の行動を洗い出すことでその疑問は氷解する。実は、清美は妹の佐和子を名乗ってスーパーで働いており、そこで出会ったのがバイトに来ていた栗本だった。優等生だった栗本の心の隙間を埋めたのは同級生の谷口とバイト先の人間関係で、清美は栗本が心を開いて接することのできる大人だった。