大坂なおみは復帰後、なぜ勝てなくなった? 世界トップ選手が口々に言う「同じテニスを続けていてはダメ」
【ベテラン記者が指摘する大坂の足りない点】 女子テニスを長く取材しているWTA主筆ライターのコートニー・グウェン氏は、まさにこの「バリエーション」こそが、ここ数年の女子テニスにおける最大の進化だと目す。 「以前に比べると、今のトッププレーヤーたちは弱点がなく、何でもできるオールコートプレーヤーになってきたと思います。なおみが若手だった頃に上位にいたペトラ・クビトバ(チェコ)やビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)、セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)らは、今よりプレーが一本調子だった。 でも最近の上位選手は、もしプランAがうまくいかなくても、プランB、プランCと、いくつもの戦術を用意できる。なおみは逆にそこがまだ足りないので、自分のスタイルや戦術で劣勢に回った時、プレッシャーを覚えているのではと感じます」 そのような視点で見ると、全米オープンでの大坂の2試合は象徴的かもしれない。あるいは今シーズンの歩みそのものも、昨今のテニス界における彼女の立ち位置を反映しているかのよう。 今季の彼女の戦績で目につくのは、直近の対戦で勝った相手に負けている点だ。 最も近いところでは、8月のカナダのナショナルバンクオープンで敗れたエリーゼ・メルテンス(ベルギー)。メルテンスとは今季3度対戦し、3月が敗戦、6月にはリベンジを果たしたが、3度目では敗れている。カロリーヌ・ガルシア(フランス)とも3度対戦し、やはり敗戦、勝利、そして敗戦となった。リュドミラ・サムソノワ(ロシア)には3月に勝利し、4月の再戦で敗れている。 これらの戦績は、昨今の選手やコーチはデータ分析や戦術立案に長け、それを実践するだけの多様な技も修得している証左だろう。 そして、大坂が自分に足りない要素として挙げてきた「試合勘」の正体も、ここにありそうだ。つまりは、ここ数年で顕著に見られるテニスの変化や進化に、順応していくことなのだろう。
冒頭に触れたように、自身の皮膚感覚と戦績のギャップに戸惑う大坂だが、彼女はこうも言っている。 「ちゃんと戦績に向き合い、現状を把握しなくてはいけないと思っている」──と。 大坂にとって今季は、まずはフィジカルを中心に基礎を取り戻す一年。その土台の上に、いかなるテニスを構築していくのか? 真価が問われるのは、ここからだ。
内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki