ダムに揺れ続けた58年 熊本・五木村が建設を受け入れ
ダム計画に半世紀以上翻弄されてきた熊本県五木村。21日に開いた村民集会で、木下丈二村長は「流水型ダムを前提とした村づくりにむけて、新たなスタートラインに立つべきだと判断した」と語り、ダム建設を受け入れるという一つの結論を出しました。
ダム計画が浮上したのは1966年
川辺川にダム計画が持ち上がったのは1966年にさかのぼります。球磨川で相次いだ水害を受けたもので、1996年には国と熊本県、五木村と相良村が本体着工に同意する協定を結びました。
建設計画を白紙撤回 一転、ダム建設へ
状況が一変したのは2008年のこと。この年に就任した蒲島郁夫知事(当時)が、環境への影響を懸念する声などを受けて、建設計画の白紙撤回を表明。さらに、12年後の2020年、熊本豪雨によって球磨川流域に甚大な被害が出たことを受けて、今度は一転してダム建設を国に求めました。 こうした中、国が去年まとめた環境影響評価のレポートの中で、地域の環境を保全するための対策の数々を、五木村の木下村長は「環境に極限まで配慮したものになっている」と評価。県が示している総額100億円規模の振興計画についても、「踏み込んだ振興策を示された」としました。これらを判断材料として、建設の受け入れに舵を切った形です。
ダム建設に向けた手続き上、地元自治体の同意は必要ありませんが、国や県は地元の同意が必要というスタンスで協議を続けてきました。計画浮上から半世紀あまり、建設に向けた準備が本格化することになります。
ダム建設による水没予定地には、計画が白紙撤回された後に村が整備し、2019年に営業を開始した人気の宿泊施設「渓流ヴィラITSUKI」も。その移転先探しをはじめ、川の周辺への盛り土による平地の確保など、ダム建設を前提としなければ始められない交渉が多いことから、村はこうした振興策の本格化を目指しています。
「二度と翻弄されないように」住民の複雑な思い
21日の説明会で、住民は、ダムや振興策をめぐる様々な思いを口にしました。 「村の振興策を進める上で、流水型ダムがあるとないとでは雲泥の差だと思う」「みんなが驚くような振興策を示してもらいたい」「全然想像もつかない日本一の巨大ダムを作るよりも、この川を生かした方が、自分たちが亡くなった後も若者がやってくる」… なかには、「住民に意思表示する機会がなかった」として住民投票を求める声や「当事者の蒲島前知事にも来てもらいたかった。五木村が翻弄されないよう、二回も三回も建設するとかせんとか、もうやめてほしい」という声もありました。
説明会は、住民から意見が相次ぎ、2時間ほどで終了。住民の賛否はあるものの、村は建設を受け入れる前提で、協議を進めていく方針を固めました。 木下村長 「揺れてきた58年間ではありますけど、五木村として揺れを止めて、振興に臨む時が来たということで、村民の貴重な意見をたまわったので、これからしっかり前に向けて進んでいきたいと思います」 ダムは計画通り進めば、2027年度に本体の基礎工事が始まり、2035年度の完成を見込んでいます。