【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その12
とりあえず、鰊の甘露煮をつまみながら蕎麦が出るのを待つ。前夜、イタリアンを楽しんだ舌が、今度は甘辛い魚料理を喜んだ。店の女性スタッフは、きびきびと身のこなしが軽く、蕎麦の説明も手慣れていて分かりやすい。街のおばちゃんの雰囲気そのままの応対が温かで、どの客も穏やかな表情で蕎麦を手繰っていた。 私は、どちらかといえば、細くて白くて喉越しのいい更科系が好みだが、やってきた蕎麦の見た目はやや違うタイプ…。しかし、手繰ってみたら、のどから鼻に抜ける蕎麦の香りに箸が止まらなくなる。つゆは思ったよりもしっかりしていて、コクが深い。蕎麦の太さ、風味とバランスもよく、いつのまにか小皿を1枚ずつ平らげていく楽しさ、心地よさに身を委ねていた。岩手のわんこそばも同じような楽しみなのだろうけど訪ねたことがないので、蕎麦を皿のリズムで楽しむ経験はここが初めてだった。あっという間に5枚を平らげて、追加で3枚。もう少し食べられそうだったが、満腹になって、この先のドライブで眠気が襲ってきても困るので、断念(笑)。全国の蕎麦好きが支持するのも、遠路を訪ねてくるのも、素直に納得である。思いつきの提案に乗ってみたら、出石蕎麦の至福に酔うことができたが、東京を発つ時、こんなひと時が待っているなんで想像もしなかった。だから、クルマ旅は楽しい。
【筆者の紹介】 三浦 修 BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。 【ひねもすのたりワゴン生活】 旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。
三浦 修