「藤井さんは秀才型」加藤一二三が藤井聡太を「すごい勉強家」と評する理由
● 藤井聡太がデビュー戦から 見せていた本質とは? 加藤 僕は、藤井聡太さんのデビュー局で対戦し、千駄ヶ谷の将棋会館には多くの報道陣が集まって非常に話題になりました。僕は矢倉で名人にもなり、タイトルも取り、たくさん勝っていて、矢倉がいちばん得意なんだけれども、矢倉の中で5局ぐらい手を焼いている形があるんですよ。その中のひとつの作戦を、このとき藤井さんが僕にぶつけてきた。僕はその瞬間、彼はすごい勉強家だと思った。 茂木 加藤さんの将棋を研究していたんですね。 加藤 そう。僕の苦手な将棋をぶつけてきた。対局の始まる30分以上前に着座して、微動だにしない。僕は矢倉で約800局戦って400局以上勝っていますが、藤井さんはすべて研究している。彼は秀才型だと悟りました。あの人の本質は、既に僕とのデビュー戦で出ていました。 茂木 なるほど。 加藤 それであらためて思いますが、人生には巡り合わせというものがあって、私は藤井さんと対局してから、6ヵ月後に引退したんです。これはよかったんですね。なぜかと言いますと、藤井さんが僕にデビュー戦で勝って、その後、どんどん、どんどん、彼は勝っていきました。そこで今まで将棋のことがまったくわからなかった世界の方々も将棋界に注目し、将棋界は沸きました。
僕は77歳で現役を引退しましたが、引退後、道を歩いていてもご婦人方から「引退お疲れさま。でもいい後継者が出てきてよかったじゃない」という声がかかるんですよ。そのあとも藤井聡太さんが対局で勝つと、「藤井さんの将棋について語ってくれ」と、ずいぶんテレビ局から頼まれて、いちばん多いときは1日に5本出たこともありました。 あるとき、たまたま将棋会館で藤井さんに会ったから、藤井さんに「あなたが勝つと、私テレビに呼ばれるんだよ」と言ったら笑っていました。 茂木 藤井聡太特需ですね(笑)。 ● 胸がわくわくする棋士は 後にも先にも藤井聡太だけ 加藤 私は、藤井さんの将棋が好きなものだから、今でも研究しています。具体的に言うと、一昨年(2022年)、藤井さんが王位戦で、後手番の腰掛け銀で豊島将之さんに勝った。これも僕は1週間考えました。完璧でした。 今の将棋界は昔と違って腰掛け銀全盛ですよ。腰掛け銀は先手番の腰掛け銀と後手番の腰掛け銀がありますが、藤井聡太の将棋は先手番の腰掛け銀はもちろん、後手番の腰掛け銀でも勝てる。いや、さすがですね。 はっきり言って僕は、藤井さんの将棋を研究すると胸がわくわくする。今までいろいろな名人と戦ってきたけども、胸がわくわくするっていう棋士は、藤井さんの将棋だけです。