「藤井さんは秀才型」加藤一二三が藤井聡太を「すごい勉強家」と評する理由
加藤 なるほど。 ● 人間は人間同士の 対戦にしか興味がない 茂木 最近はニコニコ動画の対局中継などで、人工知能の評価値がつねに何%と出るし、たしかNHK杯でも形勢判断が出るようになりましたが、解説する側から見ると、ああいう勝敗確率ってどう思いますか。 加藤 そうですね、人工知能の計算で60対40などと表示されますが、終盤になればなるほど、人工知能の評価は正確だと思います。というのは、人工知能は結論が出やすい局面ほど能力を発揮するからです。ですので、評価値を出すのはいいと思うけれど、「ああそうか、人工知能を使ってるんだな」という感じですかね(笑)。 茂木 加藤先生の時代は、それこそAIなどまったくなく、人間力だけでやっていたから、そのころと比べると将棋界も変わってきているでしょうね。 加藤 変わりましたね。それは別に悪いことじゃないと思うけれど、コンピューターだけに頼っていたのでは、実際に実力は身につかないだろうと思っています。僕自身は独学でした。経験上、将棋は自分だけで研究してもきちんと本質を明らかにできるという自負があるんですよ。ひとりで研究して行き詰まったということはなかったですから。
茂木 以前、将棋AIの開発者が言っていた話がおもしろくて好きなんです。一時期、電王戦といって、人間の棋士とAIとの対戦が注目を浴びていた時代がありましたね。その時代が終わって、今はAIが人間のはるか上をいっていることが確定しちゃったわけですが、AI同士の対戦って、じつはまだやっているんです。 加藤 そうなんですか。 茂木 はい。でも、そこには誰も興味を持ってなくて、それはチェスも同じなんだそうです。結局、人間は人間同士の対戦にしか興味がないというか、生身の人間の持っている人間臭さや息遣いに人は魅力を感じるんだなと。加藤さんの時代も藤井さんの時代も問われるのは人間力なんだなと思いますね。 加藤さんの場合、信仰というものがあるだろうし(編集部注/加藤氏は30歳のときにカトリックの洗礼を受けた)、羽生さんは勝利を確信すると指が震えるということが知られています。そういうすごいパッションのあるところが羽生さんの強みなんでしょうし。逆に藤井聡太さんは、淡々とクールに攻めていくところが人間力でしょうし。人によって、人間力が違うのもまた魅力ですよね。 まあ、今後はAIにもはっきりとした個性が出てくるかもしれない。そうしたら、AIにも今までとは違う魅力が出てくるのかもしれないですけれどね。