『学マス』などの音楽を手掛ける”ASOBINOTES”鼎談 子川拓哉×渡辺量×佐藤貴文が語るモノづくりへの情熱
この先10年以上続けていくことを見据えた『学園アイドルマスター』の布陣
――『学マス』に関しては、ASOBINOTESが楽曲プロデュースという形で制作に入っていますが、こちらはどのような経緯だったのでしょうか。 子川:そもそもは『ASOBINOTES ONLINE FEST 2nd』を2020年の年末に開催した際に、そのキービジュアルに天海春香(『アイドルマスター』シリーズに登場するアイドル)を載せていたので、当時『アイマス』シリーズを担当していた小美野さんにイラストの監修をお願いしたのがきっかけです。そのときに『アイマス』シリーズの新作を作っていること、レーベルがまだ決まっていないことを聞いて、「うちにやらせてくださいよ!」とがっつり営業しました(笑)。その頃には『電音部』も発表済みでフィジカル(CD作品)も出していたので、楽曲制作も流通もASOBINOTESでできるし、「サウンド面のテクニカルな部分も佐藤貴文がいるので大丈夫です!」って勝手にふみっちょの名前も出していました(笑)。 佐藤:実は、それと同時に僕も小美野さんから「レーベルをどうするべきか」という相談を受けていたんですよ。その中で僕も『学マス』の音楽プロデュースを担当したいとお話ししていて、社内レーベルであればより自由に動けるかもしれないということで、子川くんの話と上手く合致して今の形にまとまりました。僕も、子川くんには絶対いてほしいとお願いしていたんですよ。 ――佐藤さんはこれまでにも『アイマス』シリーズの音楽制作に関わってきた中で、なぜ『学マス』の音楽プロデュースを担当したいと思ったのですか? 佐藤:僕はこれまで『アイドルマスター ミリオンライブ!』を中心に担当してきましたが、今の立ち位置でやれることはすべてやってきたと思っています。その上で、枠組みの外から見ると「こうした方がもっと面白そう!」と感じる瞬間もあり、『学マス』は、枠組みを外して挑戦できると思ったのが大きいです。今は好き放題にやらせてもらっていて、ASOBINOTESだからこそできていることがたくさんあると感じています。 子川:この人、めっちゃお金使ってますからね(笑)。 佐藤:だって予算は無限大って言うから(笑)! 子川:いやいや(笑)。 ――先ほどの楽器の数の話じゃないですが、『学マス』の楽曲はオーケストラやホーンセクションも贅沢に使われていて、リッチな音作りをされていますもんね。 佐藤:音楽チームだけでなくゲームチームとも一緒にやっている視点があるので、音楽に関しても、本当に良いと思えることをやって間口を広げたほうが結果的にIPの広がりに繋がっていくと思っています。僕や量さんのようにゲーム開発に携わっている身としては、ゲームの開発にはものすごくお金がかかるからこそ、そこでコストを無理に抑えようとする意味を考えたりもするんですよね。 渡辺:今はお金の話にフォーカスしていますけど、想定していたことのさらに上を行く、いい意味で「やりすぎ」なところまで到達していくと、より広いところに刺さりやすくなるとは感じていて。そういうモノづくりのアイデアや発想――与えられた予算の中で小さくまとまってしまうのではなく、ちょっとネジの外れたサービス精神が佐藤くんにはあると思うので(笑)、そこがすごくいいと思います。 子川:小さくまとまらないので、調整する立場としても楽しくやらせてもらっています(笑)。 ――実際、長谷川白紙さんが楽曲提供した篠澤広のソロ曲「光景」のように、従来の『アイマス』シリーズのファンを超えて、音楽好きの間で楽曲が話題になるケースもありました。 佐藤:そこはASOBINOTESだからできていることだと感じています。子川くんも含めてチーム全体に「おもしろいことをやっちゃおうぜ!」「驚かせてやろう!」というエンタメ精神が強くあるんですよね。 子川:特に「初」(初星学園名義の全体曲)はおもしろかったよね。 ――『学マス』全体のテーマソング的な立ち位置の「初」を作った原口沙輔さんは、この楽曲を制作した当時、すでにメジャーシーンで活躍されていたとはいえ、まだ高校生だったという話で。その意味ではかなり大胆な起用でした。 佐藤:『学マス』は新規IPなので新しい風を吹かせたい、というところに沙輔さんはすごくマッチしていました。僕は『学マス』をこの先10年以上続けていくプロジェクトとして考えていたので、そこで流行りを意識した曲を最初のテーマソングにしてしまうと、後々古さを感じることになってしまう。その意味でも、時代の色ではなく独自の色を持っている沙輔さんにお願いしました。 ――月村手毬のソロ曲「Luna say maybe」を提供した美波さんのように、すでにアーティストとして自分のスタイルを確立している方が楽曲提供しているケースも多いですよね。 佐藤:それは、僕がやりたかったことのひとつでもあって。僕は、楽曲を作ってくださる方のアーティスト性や作家性と、『アイマス』のキャラクター性を掛け算したいとずっと思っていたんです。キャラクターに合わせていく部分に関しては、歌の収録や見せ方も含めて、僕がこれまでの経験を活かして調整できるから、楽曲を作る際には作品やキャラクター性を意識することなく、好きに作ってくれればいい。なので、逆に(『アイドルマスター』シリーズと)遠い位置にいる方と一緒にやったほうがおもしろいことができると考えていました。 子川:プラスして、ASOBINOTESレーベルは「飛び込み営業型」という特徴があるんですよ。「この人にお願いしたい」というアイデアが出たら、すぐにDMなりコンタクトフォームなりを通じて正面から連絡するので、コネクションのあるなしは関係ない(笑)。 佐藤:新規レーベルだからこそ、しがらみがなく、一緒にやりたい方に無邪気に声をかけることができるんですよね。音楽シーンとしてもアニメやゲームといった文化に追い風が吹いているので、アーティストさんも興味を持ってくださる方が多いです。 ――それでいて『学マス』の楽曲は、各アイドルのキャラクター性に合わせて楽曲制作を行っている印象が強いです。 佐藤:そこはすごく考えています。「この人なら好きに作っていただいても大丈夫」と確信したうえでオファーしているので、クリエイターやアーティストの皆さんに相談する前段階が一番重要ですね。例えば篠澤広の「光景」を書いていただいた長谷川白紙さん。僕の中で白紙さんは抽象画家のようなアーティストで、広もキャラクター的にどんなものを出してくるかわからないアイドルなんです。なので、白紙さんには広がどんなアイドルなのかをお伝えしたうえで、あとは基本ノーディレクションで自由に作っていただきました。僕としても完成系がどうなるのか予想もつかなかったけど、広はある意味、何をやっても許されるアイドルなので、最終的に上がってきたものに対して合わせていけばおもしろいものになるだろう、という発想でした。 それは美波さんも同じで。彼女が作る楽曲に対しては信頼しかないので、美波さんの考えるアプローチで作ってもらえば絶対手毬にハマると思ってお願いしました。今までの『アイドルマスター』シリーズの文脈から考えるとかなりチャレンジングな作り方をしているので、リリースするまでは正直不安もあったのですが、結果的に受け入れられて安心しています。 子川:Gigaさんの楽曲(花海咲季「Fighting My Way」)とかもそうでしたね。Moe Shopさんの楽曲(有村麻央「Fluorite」)は僕が提案したのですが、『学マス』では4つ打ちも結構取り入れているんです。基本、アイドルごとにジャンルのイメージがなんとなくあって、それに合ったクリエイターの方にオファーする流れです。 佐藤:例えば、ナユタン星人さんに書いていただいた葛城リーリヤのソロ曲「白線」は、バンド感を出していきたいというイメージがありました。他にも倉本千奈の「Wonder Scale」はオーケストラ曲にしたいということで兼松衆さんにお願いして。千奈はお嬢様なので、やっぱり楽曲もお金のかかっている音にしなくてはいけないんです(笑)。 子川:お嬢様キャラだから、そこは仕方ないよね(笑)。 ――まだまだ聞きたいことは尽きないのですが、そろそろ時間ということで。最後にASOBINOTESの今後の展望と、サウンドチームとしては今後どのように連携していきたいかをお聞かせください。 渡辺:『電音部』のライブでお客さんを目の前にしたときには鳥肌が止まらなかったですし、ASOBINOTESは我々クリエイターにとっても遊び場になっていて、DJやイベントを含めてクリエイターが活躍できる場所を提供してくださるので、本当に感謝しかないです。我々サウンドチームは音楽が持つ力を最大化するのが(バンダイナムコの)グループ内で一番得意という自負があるので、今後もいろいろな形で協力させてもらえたらと思います。 佐藤:僕もそうですが、子川くんの下でやっているチームの人たちもすごく楽しそうに仕事をしているんですよね。ASOBINOTESという名前の通り、みんな楽しく遊びながらモノづくりをしていることが感じられるので、いいレーベルだなと思いますし、僕は同期でもあるので、今後も一緒に好き放題やっていけたらと思いますね。 子川:レーベルとしては、“『電音部』だけ”という状態から脱して、今後は『学マス』に加えて、今期中には『vα-liv』も楽曲をたくさんリリースする予定です。各IPごとに担当がいるのですが、僕はとにかくクリエイターの顔を見て仕事をしてほしいと伝えていて。クリエイターとは、目線を対等に合わせて、現場感を大事にしたレーベルであり続けたいですね。 ※1:https://asobinotes.bn-ent.net/news/774/
北野創