『学マス』などの音楽を手掛ける”ASOBINOTES”鼎談 子川拓哉×渡辺量×佐藤貴文が語るモノづくりへの情熱
新規IP『電音部』 “自由な発想”を盛り込む文化が作り上げた音楽性
――『電音部』はASOBINOTES主導のもと2020年に始動したIPで、“ダンスミュージック”や“DJ”をテーマにした音楽原作キャラクタープロジェクトになりますが、どのような経緯で立ち上げたのでしょうか。 子川:レーベルの立ち上げ当初は弊社のIPの楽曲を使ったリミックスCDを作る計画を立てていたのですが、権利関係などの事情でなかなか実現するのは難しい部分もありまして。それなら自分たちで原盤権や権利を所有して、割と自由に扱えるIPを作ろう、と思ったのが発端になります。アニメ制作の経験もある石田君と一緒にキャラクターから作っていきました。“ダンスミュージック”や“DJ”に関しては、単純に僕が好きだからというのが大きいです。楽器代も余りかからないですしね。(佐藤を見て)……めっちゃ楽器を使うからなあ(笑)。 佐藤:いやあ、好きだからね(笑)。 渡辺:バンダイナムコスタジオのサウンドチームの歴史的にも、古くは『鉄拳』や『リッジレーサー』のように、黎明期の頃からクラブミュージックをゲームミュージックに取り入れてきたので、社内に好きな人間がたくさんいるんですよね。 子川:大久保博さんも「ナムコサウンドチームには4つ打ちの文化がある」って言っていました。誰が一番最初に始めたんですか? 渡辺:自分は細江慎治さんだと思いますね。『F/A』という縦スクロール型のシューティングゲームがあるのですが、その音楽にガチガチのハードコアテクノを乗せており、当時非常に革新的でした。遠山明孝さん(AJURIKA)もトランス好きですし、自由な発想やカウンターの発想で音楽のアイデアを盛り込んでいく文化が脈々と続いているのがうちの特徴だと思います。 子川:イノタクさん(TAKU INOUE)もいましたしね。今だとSho Okada(岡田祥)というすごい才能のクリエイターがいまして。僕は惚れ込みすぎて、彼名義のEP(『百鬼夜行』/2024年)まで制作してしまいました。 ――(笑)。岡田さんは『電音部』では安倍=シャクジ=摩耶「狐憑キ」「稀びと」などを制作されていますね。渡辺さんは『電音部』のサウンドアドバイザーを務めていますが、具体的にはどのように関わっているのですか? 渡辺:BNE内の『電音部』チームがサウンドのディレクションやクリエイターの人選を行っているのですが、私はそこで一緒にやっていく仲間のような感じですね。音まわりの制作、レコーディングやトラックダウンといった部分に関してもアドバイスさせていただいたり、(キャストの)オーディションにも関わらせていただいて。オーディションの審査の経験なんてこれまでなかったので、「どうすればいいんだろう?」というところからの始まりでした。 子川:僕は耳が特別良いわけではないので、量さんには歌の審査も含めて見ていただきました。他にもマスタリングの工程についてアドバイスしていただいたり、大きめのライブでは音楽監督としても入ってもらっています。 渡辺:1stライブの見学でリハスタに行ったら、その場で「音楽監督をお願いします」と言われて、いきなりJUNGO(演出家・映像ディレクター)さんの隣に座らされましたからね(笑)。 佐藤:子川くんは、大体無茶ぶりをしてきますよね(笑)。 子川:いつも助けられています(笑)! 渡辺:新規IPに対して「好き」の感情を持っている人が集まって立ち上げから手探りで作っていったので、自分としても楽しみながらやっていました。チーム全員が「早くお客さんに届けたい!」という気持ちでいて。楽曲を制作してくださるトラックメイカーの人たちにも、子川さんから直接声をかけて、そのクリエイターの方が今やりたいことを最大限引き出すようなアプローチ、「あなたの本気を見せてください!」というオファーをされていました。通常のゲーム音楽の制作のように、場面や演出意図に合った音楽を当てはめていくのではなく、作家の本気を引き出すようなやり方だったので、まだIPが立ち上がっていない状態で制作した最初の20曲のデモが揃っていくときは超楽しかったです。 子川:特に衝撃的だったのは「Hyper Bass (feat. Yunomi)」でしたね。 渡辺:そうそう。Yunomiさんなので、きれいなハーモニーのお洒落でキャッチーな楽曲が上がってくるものと想像していたら、あの曲が上がってきて。 ――「Hyper Bass (feat. Yunomi)」は、当時のYunomiさんのパブリックイメージだった“Kawaiiフューチャーベース”を逸脱する強烈なアシッドハウス曲で、自分も衝撃を受けました。 子川:それを聴いた量さんが、「他の案件であればリテイクをお願いするところですが、このままいくほうがおもしろいと思います」とアドバイスしてくれた記憶があります。 渡辺:このように、クリエイターのやりたいことを自由にやらせてくれるのがASOBINOTESのカラーだと思いますね。 ――その中で佐藤さんは「アイドル狂戦士 (feat. 佐藤貴文)」という楽曲を制作されました。 佐藤:僕も『電音部』は立ち上げのタイミングからおもしろいと思っていて、子川くんの社内部活のようなノリでレーベルを作ってしまうところや、自由な発想を感じさせるクリエイター精神にすごくシンパシーを感じていたので、楽しんで楽曲を作ることができました。 子川:「アイドル狂戦士」はどちらかというと「あんずのうた」(佐藤が手掛けた『アイドルマスター シンデレラガールズ』のアイドル・双葉杏の楽曲)の進化系だよね。ふみっちょは属性を2つ持っているんですよ。“主題歌”属性と“電波(ソング)”属性。「アイドル狂戦士」は“電波”属性だけど、それは自分の中で切り分けてるの? 佐藤:どうだろう? ただ、僕は神前暁(MONACA所属の音楽家)さんの背中を追ってこの業界に入ったので。神前さんは主題歌系の才能もずば抜けている方という意味では、そういう楽曲をやりたいという気持ちがあって。だけど、10年以上クリエイターとしてやってきた中で感じるのは、僕に求められているのは“電波”のほうなのかなって(笑)。 子川:“電波”は好きなの? 佐藤:好きだと思う(笑)。どっちも好きだけど、“電波”は他の人と違う色を出しやすい部分なのかなと。「僕の個性を出してほしい」と言われたときに“電波”の要素を出していくとなぜかみんな喜んでくれるんだよね。 子川:それは「あんずのうた」があったからじゃない? 佐藤:それこそ「あんずのうた」に関しては、自由に作らせてもらった最初の曲だと思っていて。あの曲は“電波”の方向性をやりたい気持ちがあって、自分から「やらせてください」とお願いして作った曲なんです。だから、根っこの部分はそっちにあると思います。 子川:なるほど。これはおもしろい話なんですけど、ふみっちょに作ってもらった『学マス』の「The Rolling Riceball」(花海佑芽)という楽曲は、“主題歌”と“電波”の属性が両方とも入っているんですよ。混ぜ合わせたのは初めてなんじゃないかな。 佐藤 たしかにそうかも。『学マス』はいろんな若手のクリエイターさんに楽曲制作をお願いしているのもあって、正直僕は音楽プロデューサーの役割に徹して楽曲作りに関してはお任せしようかなと思っていたんです。でも、子川くんに「作ってほしい」と言われたので、自分としても求められているものを最大限に出そうと思って。 子川:『学マス』の最初の楽曲ラインナップに関しては僕も結構口を出したのですが、メインプロデューサーの小美野さんから、「今までの『アイマス』シリーズっぽくないものにしたい」と言われていた一方で、「ライバル的な立ち位置の佑芽の曲は、逆に今までの『アイマス』っぽいものでいきたい」という話も聞いていて。それで、これまで『アイマス』シリーズの音楽に深く関わってきたふみっちょに佑芽の曲をお願いしたんです。 佐藤:ライバルというのは、言うなれば「超えるべき存在」なので、僕がその楽曲を作って、それを若手クリエイターの方たちの作った楽曲が乗り越えていく、という構図はたしかにおもしろいなと思いました。それで腹を括って自分で曲を書くことにして。僕もクリエイターとしてタダでは負けたくなかったので、自分の武器となる“電波”っぽさを混ぜて作ったのが「The Rolling Riceball」でした。