『十角館の殺人』実写化…綾辻行人が37年越しに語る「館」へのこだわり
ミステリー界の巨匠・綾辻行人の作家デビュー作にして、最高傑作との呼び声も高い『十角館の殺人』 (講談社文庫) が、待望の実写映像化。3月22日 (金)午前十時(AM10時)からHuluで全話独占配信がスタートした。 【写真】二十六歳『十角館の殺人』でデビューも、四作目は賛否両論「期待外れ」 全世界シリーズ累計670万部を誇る綾辻行人の大ベストセラー「館」シリーズ。その第1作『十角館の殺人』は、緻密かつ巧妙な叙述トリックで読者を引き込みながら、たった1行で事件の真相を描く大胆な手法で、ミステリー界に衝撃を与えた。 誕生から37年経った今も色褪せない世界的名著として輝きを放ち、長年「映像化不可能」と言われてきた本作。今回は原作者である綾辻行人氏に話を聞いた。
監督が「やり通してくれた」
実写ドラマ「十角館の殺人」がHuluで独占配信される1ヵ月半ほど前に、監督を務めた内片輝氏をはじめ、キャスト陣、制作陣が集まる中、ドラマ1話2話の完成試写が行われた。 「なかなか感慨深いものがありました。『まさかの映像化』が良い形で完成したことはもちろん原作者として嬉しいんですが、それよりもまず、内片監督がこの異例の企画をよくここまでブレずにやり通してくれたな、と。この試写会で初めて完成作を観た若い役者さんたちも、それぞれに込み上げる想いがあるようでしたね」 そう語る綾辻さんは試写直後、内片監督と笑顔で握手を交わした。 ふたりは1999年に第1作が放送された本格推理ドラマ「安楽椅子探偵」シリーズ(綾辻と有栖川有栖が共同で原作を考案。内片が第7作までの監督を務めた)以来のつきあいで、もともと信頼を置いていたというが、それでも「映像化不可能」と考えられ続けていた『十角館の殺人』実写化の話を持ちかけられたときは驚いたという。 「漫画化・アニメ化まではできても実写化はまず無理だろう、というのが僕の認識でした。実写映像は圧倒的に情報量が多いから」 漫画・アニメでは登場人物やモノが、あるレベルまで記号化され、情報が簡略化されるので、原作の仕掛けを再現することも不可能ではない。ところが実写になると、すべてを生身の人間が演じることになる。 漫画やアニメのようにはいかないだろう。当初、内片監督から「演出やキャスティングを工夫すれば、実写でも原作と同じ効果が狙えるはず」という説明を聞いても、綾辻さんはピンとこなかったそうだ。 「ただ、内片監督があまりにも熱心に『できます! 』とアピールするものですから、そこまで言うのなら彼に任せてみようか、という気持ちになりました。任せてみて、成功しなかったらしなかったで、それでもまあいいか、とも。そう思えるような関係性だったんですよ、内片監督とは。 監督のほうには、『安楽椅子探偵』シリーズを何本も撮ってきたという自信があったようですね。あのシリーズは“映像ならではの仕掛け”と“フェアでロジカルな犯人当て”にとことんこだわった、非常に特殊なドラマでしたから。あのときの経験で得られたものが今回、かなり役に立ったのだろうとも思います」