『虎に翼』の「判事餓死事件」を見て考えた…戦場に出ていない「大正生まれ」が抱いていたであろう「悔しさ」と「申し訳なさ」
満33歳の餓死事件
『虎に翼』の弁当のシーン見ていて、岩田剛典が演じる花岡判事は、佐賀出身という設定で、そういえばこの餓死した判事もたしか佐賀出身だったんじゃないか、とふとおもいだしていた。 なぜ、そんなことを覚えていたのかが自分でも不思議である。 裁判官の名前は覚えていないのに、佐賀出身ということは覚えていた。 おそらくどこかでこの人物のことを調べたことがあったのだろう。ネット検索なんか存在しない時代のことだから、何かしらの資料に当たって、読んだことがあったのだ。 でないと、たしか佐賀県、という記憶の意味がわからない。 いまは簡単に調べられる。 「餓死した判事」と検索ワードを打ち込めば、つらつらと出てくる。 なんという至便さであるか、とかつて自分が調べたことがあるものを再び調べるときにかぎり、痛感する。 栄養失調死と覚えていたが、栄養失調によって死に到ることを「餓死」と呼ぶので、餓死事件と呼んでも間違いではない。 栄養失調死判事の名前は山口良忠。佐賀出身。京都帝大を出ている。 大正2年(1913)生まれなので、死んだときにまだ満33歳であった。
「法の番人が悪法を遵守して死ぬのは是か非か」
『虎に翼』ヒロインのモデル三淵嘉子と、山口良忠は高等文官試験に昭和13年に同期で合格している。つまり「同期」という設定もまったくの嘘ではない。 ただ、通った大学は違うので、一緒に勉強会を開いたり、ハイキングに行って岩山から落ちるのを目撃したりはしていないとおもわれる。 33歳の死というのを知って、また、あらたに驚いた。 悪法も法なりと遵守して死んだというのは、当時から賛否があったようだ。 それはドラマでも描かれている。 花岡の死後、ヒロインの上司となった多岐川幸四郎(滝藤賢一)は、否定してた。 寅子らが花岡と同期だと知ると「なんだ、きみたち、あのバカタレ判事と同期なのか」と言い放った。そのまま「法律を守って餓死だなんて、そんなくだらん死に方があるか、大バカたれやろうだね」と続けて挑発的な発言をつづけ、寅子の怒りを買う。 これもまた当時のリアルな反応だったのだろう。 立派な行いだと感じる人もいれば、愚かな行為であったと糾弾した人もいる。 「法の番人が悪法を遵守して死ぬのは是か非か」というのは、たしかに結論の出しにくいテーマではある。 『虎に翼』では55話で多岐川が結論めいたことを言っていた。