なぜ若者は怒られると過剰に反応してしまうのか 上司にとって「怒らない=最適解」になる病理
実際、現場はもっとシビアに振り切っている。「怒るということ」について雑談していたところ、とある大企業の管理職の方が言い放った。 「いやもうね、怒ると叱るとは違うとか、もはやそういう問題じゃないんだよね。会社の研修でも、もう絶対怒らないでください、叱るとか諭すとか関係なく、それに類すると思われるようなことは一切止めてください、って言われるよ」 一度も怒られたことのない割合が近年急増している一因は、管理職研修にもあるだろう。怒る/叱る問題は、実は怒る側の方便にもなってしまう。ハラスメントに類する問題が浮上したとき「怒ったんじゃなくて叱ったんだ」という唯言的な言い訳を許してしまうことにもつながる。だから「疑わしきは禁止せよ」で、一切怒るな、と指導されるそうなのだ。
■上司は「会社の代理人」として振る舞っている みんな上司をやり玉に挙げるのだけど、見過ごされている事実がある。上司は会社の代理人として振る舞っているにすぎないという点だ。チェスター・バーナードという著名な経営学者は「組織人格」という概念を提唱している。組織における人格が、個人の人格とは別に存在するというのだ。 多くの上司は、個人的にどう思うかにかかわらず、会社に命じられて、怒るかどうかを決めている。個人的にはどうでもいいけど組織人として対処することもあるし、個人的には注意すべきだと思ったけど組織人としてスルーした、ということも起きうる。
ちなみに、いわゆる大企業ほどこの傾向は強まるだろう。大企業ほど管理職向けには丁寧に研修をするし(一般論としては、研修など社員教育にリソースを割く企業はよい企業である)、コンプライアンスを気にして強い統制を行っている。 つまり結論としてはにべもないものだけども、会社として揉め事にならないように怒らなくなった、というだけといえばだけなのだ。ところがこうした構造は、上司側からは当然見えているだろうけども、当の若者はそんなことは知るよしもない。