能登地震、豪雨被災それでも… 常連客の励まし力に 珠洲の食品加工業、坂谷さん 福島県の郡山うすいで物産展出店
石川県の産品を集めた物産展が25日、福島県郡山市のうすい百貨店で始まった。記録的豪雨に見舞われた能登半島北部にある珠洲市の加工食品製造・販売業「能登揚げ浜マルサカ」も出店している。1月の能登半島地震で工場が全壊。金沢市に移り操業する中、地元は自然の猛威に再びさらされた。会長の坂谷吉春さん(75)=穴水町観光物産協会長=は「人が温かくて大好き」というなじみの売り場に立ち、常連客ら〝仲間〟の励ましを受けた。 「元気だったかい!」という客の声がけに、法被姿の坂谷さんが「おう、ありがとう」と答える。多彩な品が並ぶ一角に明るい会話が響いた。初日の店先では、うれしい再会が相次いだ。地震直後に「心配だ」「頑張って」と電話をくれた人、「これを飲んで頑張って」と地酒を持たせてくれる人…。「みんなの顔を見るのが元気の源だよ」と顔をほころばせた。 坂谷さんは28歳で会社を創業。自社の店以外に全国の物産展に出向き、伝統の揚げ浜塩田から取れる塩や生ワカメ、乾物などの海藻類、豊富な海の幸を使った棒ずし、炊き込みご飯を届けてきた。うすい百貨店の物産展は35年前から出店を続けている思い入れのある催事だ。
元日の地震は、コロナ禍で落ちた売り上げを取り戻そうと意気込んでいた中での不幸だった。山の中腹にある工場は地滑りで全壊。長男一家の住む家や、年内に開業を予定していた民宿も土砂に埋もれた。工場周辺の水道や電気が9月までに復旧。最近はボランティアも入り、土砂や廃材の撤去が始まっていた。 ようやく見え始めた復旧の兆しは、21日からの記録的な大雨で振り出しに戻った。安全が確認できないとして工場周辺への道路は通行が制限され、詳しい被害状況さえ把握できていない。 地震以降、会社としては9回ほど各地の物産展に出ているが、坂谷さんが現地に入るのは今回が初めてだ。「元気だよ、という顔を見せに来た。能登のおいしい食を堪能してほしい」。工場再建の見通しは立たないが、客との触れ合いから再起に向かう意欲を持ち帰ろうと考えている。東日本大震災や東京電力福島第1原発事故に度重なる豪雨…。災害の辛さを知る県民との交流を求めて店頭に立つ。