「脱・事務方」職員を育てる大学が生き残れる理由、生き残りに不可欠な「組織運営のプロ」 志願者数増加に頼る量のアプローチには限界
大学職員に高度で専門的な業務が求められるように
現在、日本には国公私立あわせて813の大学がある(文部科学省「令和6年度学校基本調査(速報値)」。少子化で学生募集を停止する学校もある中、大学の統合も増えている。2024年10月には東京工業大学と東京医科歯科大学が統合して東京科学大学が誕生したほか、2025年4月には桃山学院大学と桃山学院教育大学、2026年4月には学習院大学と学習院女子大学が統合される予定だ。大学の教育や研究はもとより、組織のあり方の見直しも迫られる中で大学職員の業務も高度化している。元大学職員で現状に詳しい倉部史記氏に解説してもらった。 【写真を見る】「より少ない人数で、より高度な業務を遂行するための効率化や合理化が必要」と話す倉部史記氏 わが国の大学業界は今後、ますます厳しい状況に直面します。1992年に約205万人だった18歳人口は減少の一途をたどっており、2024年現在、約106万人。2065年には68万人程度まで落ち込むと推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」)。 短大や女子大をはじめ、学生募集停止の報道を目にする機会も増えました。社会状況の変化に合わせて、大学の教育や研究のあり方も見直しを進めていく必要があるでしょう。 大学組織の今後を考えるうえで注目されているのが、大学職員の方々です。文科省によれば教員や技術者、医療スタッフなども含め、大学に勤務している方は約45万人。このうち9万5000人ほどが、いわゆる事務職員としての大学運営業務に従事しています(文部科学省「学校基本調調査」)。 私も元・私立大学職員です。一昔前の大学職員は文字どおりの「事務方」として、教員たちや経営陣による大学運営を補助する立ち位置に徹することも少なくありませんでした。重要な意思決定は教員が行い、職員はそれを受けて動くことが多かった。しかし大学を取り巻く状況の変化もあり、職員の職務も変わってきました。 現在では入学者の確保や受け入れ、学生支援、留学サポートなどの国際支援、財務、寄付金獲得、就職・キャリア支援、各種調査など、各分野で高度で専門的な業務が求められるようになっています。 教員が教育および研究のプロだとしたら、職員には組織運営のプロとしての姿勢や業務スキルが求められています。より少ない人数で、より高度な業務を遂行するための効率化や合理化も必要になるでしょう。生き残りを懸けて大学改革を進めようとするのなら、職員の活躍は不可欠です。 とはいえ、そこにはいろいろと課題も多いようです。私は2023年7月に『大学職員のリアル』(中公新書ラクレ)という書籍を出版しました。数十人の現役大学職員にインタビューを行いながら、大学職員の現状と今後をまとめたのですが、同書ではこんな事例もご紹介しました。 Aさんが勤務していた某国立大学には、全学あわせて80人もの経理担当者がいたそうです。その後、より学生数の多い私大に移ったところ、そこでは全学の経理業務を10人程度で処理していたのです。同じ業務を処理するにも、前者では複雑な手続きに則って専用の書式に記入し、数多くの上司の決裁を仰がねばならない。対して後者では業務が合理化、デジタル化されており、手続きにかかる時間や手間が大幅にカットされていたとのこと。 国立と私立では規定のあり方や必要な書類の数に違いがある、という要因は大きいかと思いますが、「本当にそのやり方は今後も必要なのだろうか?」と考えさせられる事例です。