【ジェンタ作品いくつ知ってる?】かつてセイコーの腕時計も手がけた時計デザインの巨匠
ジェラルド・ジェンタはラグジュアリースポーツの金字塔とも言えるオーデマ ピゲのロイヤル オーク、パテック フィリップのノーチラスのデザイナーとして知られる時計界の巨匠だ。時代に先駆けた独創的なセンスを発揮し、多くのブランドでアイコニックな作品を手がけ、時計界のピカソと称されるほど高い評価を得てきた。 【画像:ジェンタ作品で狙い目は流通も豊富なオメガ Cラインケース】
1931年にスイスで生まれたジェンタは、当初はジュエリーデザイナーを目指していたが、程なくして時計デザイナーに転身。彼がその名を知らしめることになった最初の作品は、ユニバーサル ジュネーブのポールルーターだ。 当時のスカンジナビア航空は、アメリカ西海岸と北欧を結ぶ路線を距離短縮したかったが、冷戦下にあった時代ゆえにシベリア上空を飛行することができず、やむなく北極上を飛行するルートを模索するしかなかった。しかし北極は磁気の影響が凄まじく、スムーズな飛行のために耐磁性に優れたパイロットウオッチが求められていた。 ポールルーターはこの厳しい要求に応えて生まれた時計だ。薄く小型化するために、ムーヴメントの動力源であるローターを従来の1/4ほどのサイズに抑えたマイクロローターを採用(最初期は半回転式ローターを採用)。デザインを依頼されたジェンタ(当時23歳)は、マイクロローターを生かしたスリムで装着感が良く、しかも耐磁性に優れたケースを生み出した。ツイステッドラグのラインに、ジェンタらしい優美さを見出すことができる。ジェンタはこのほかにホワイト シャドウなど、様々な名デザインをユニバーサル ジュネーブに提供している。
時計業界で大きく名を売ったジェンタは、1960年代後期から70年代にかけて多くの時計ブランドからデザインの依頼を受ける。フリーランスで活躍するスターデザイナーの走りともいえる存在だったのだ。前述のロイヤル オークやノーチラスのほか、オメガのCラインケース、IWCのインヂュニア、ブルガリ ブルガリなどがその代表作だ。 潜水艦や機関車といった乗り物をモチーフにした自由な発想、エルゴノミックに基づいた有機的なデザインは、数十年の歳月を経た現在も各ブランドの主要ラインとなっているほど先駆けたものだった。1972年には自身の時計ブランドを創設しているが、そこではディズニーキャラの時計を手がける茶目っ気や前衛性も発揮していた。 ジェンタ自身は2011年に死去してしまったが、彼の作品はいまでも時計市場で高い人気をキープしている。アンティークモデルにもその作品は多いが、時代を超越したデザインゆえに、いまの時代でも違和感なく使うことができる。
文◎巽 英俊