「戦闘機」用エンジンのKRIT 100HP 公道レース3連勝のSCATタイプC 100年前の大排気量モンスター(2)
カーチス社製の飛行機用エンジンは9299cc
KRIT 100HPエアロ・レーサーの所有者は、ニール・ゴフ氏。2002年に部品の状態でアメリカから輸入し、20年近くをかけて完成させたばかり。レース・イベントへの初出場は2年前。燃料タンクには、初心者を示す巨大な「X」のステッカーが貼ってある。 【写真】100年前の大排気量モンスター ヴォグゾールにKRIT、SCAT 戦前のビンテージたち (111枚) それでも、2023年のイベントでは3位入賞を果たした。乗りこなせるようになってきたと、ゴフも徐々に自信を高めつつあるようだ。 100HPエアロは、当初は22psを発揮する質素な4気筒エンジンを積んでいた。メーカー名のKRITは、同社に出資した人物、ケネス・クリッテンデン氏が由来だと考えられている。1909年に創業するが、1915年には倒産してしまった。 現在の動力源となっているカーチス社製の飛行機用エンジン、OXX-6型ユニットへ換装された経緯は不明。恐らくヴォグゾール・バイパー・エアロのように、第一次大戦後の1920年代に当時のオーナーが入手したのだろう。 シングルカムのV8ユニットは、排気量が9299cc。パタパタと動くロッカー・メカが、完全に露出している。アメリカ海軍が広く使用した、カーチスJN-4D ジェニー複葉練習機に載っていたものだと考えられる。 最高出力は111psで、最大トルクは55.2kg-mを発揮する。4速マニュアルのトランスアクスルと、ツインチェーンを介してリアアクスルが駆動される。
周囲の全員を笑顔にする凄まじい排気音
運転席へ座る前から、ボディと呼べそうなパネルがないことは明らか。エンジンとキャビンを仕切る、バルクヘッドは木製。そこに1500rpmまで振られたタコメーターと、空気圧計に油圧計があるだけだ。 逆卍のロゴがあしらわれているが、ドイツのナチス政権とは一切関係ない。アメリカでは、幸運の印として100年前は用いられていたという。 燃料タンクの圧力を上げキャブレターへ燃料を送り、マグネトーのスイッチを押すと、V8エンジンは始動。シリンダー上部から短いストレートパイプが突き出ているだけだから、排気音は凄まじい。低音のビートはうるさいものの、周囲の全員を笑顔にする。 バイパーと同じく、シフトパターンは逆H。中央のペダルがアクセルで、右側はブレーキ。手元の長いレバーで操る方は、現代のクルマのようにパーキング・ブレーキとして使える。 加速させてみると、今日の3台では1番ドライバーへ優しいようだ。トントン拍子にシフトアップしていけ、ショートサーキットならほぼ3速のまま巡れる。 カーブへの侵入や脱出は、至って安定。気張ると簡単にコースアウトしそうに思えるが、慣れてくると不思議な自信が湧いてくる。2周をこなすと、想像以上のハイスピードで運転している自分がいた。