奇跡の色気 晴れやかに梨園を背負う 歌舞伎俳優・片岡仁左衛門
この人の舞台は今、奇跡といってもいい。 年齢を感じさせない清廉な色気、品格、深い解釈、そして美しい風姿。江戸の粋な二枚目から上方の色男、女を平気で捨てる悪党まで、客席の女性たちから感嘆のため息を誘う。 今年は1月から大阪松竹座で20代から名コンビ、坂東玉三郎と四世鶴屋南北の「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」、舞踊「神田祭」を披露。晴れやかに大阪の初春をになう。 「玉三郎さんとは50年以上、一緒にやってきました。若いときから勉強会などで共演して楽屋も一緒。兄弟のように育ちましたからね。舞台ではお互い好きに演じて自然に合わせあえるのです」 昭和40年代、2人の登場は歌舞伎界に新風を吹き込んだ。「於染久松色読販」や「桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)」などで見せた夫婦役や恋人役は、歌舞伎の古風なイメージを吹き飛ばし、若いファンを引き寄せた。 「当時、歌舞伎を取り巻く空気が変わったのを感じました。一俳優としてはありがたく、うれしかったですね。同時代にコンビを組めたのは偶然ではありましたけれども、運命的だったのかもしれません」 歌舞伎には時代を代表する二枚目スターが出現する。戦前ならば十五代目市村羽左衛門。すっきりとした花のような美貌は当代の仁左衛門に重なるが、「今も『勧進帳』の富樫を演じると、十五代目の羽左衛門のおじさんの写真を見て、まだまだと思ったりします」と謙虚に語る。 守るべきところは守り、時代に合わせて変えるべきところは変える。それが「義経千本桜」の悲劇の武将、新中納言知盛や吉野の小悪党、いがみの権太といった、血の通った人物造形に結びつく。 「今のお客さまはストーリーを重んじられる。昔は役者の演技やせりふ術を楽しまれる方が多かったのですが、時代とともに変わってきました。歌舞伎はあくまでも娯楽。でもそこに、芸自体の面白さや悪をも美学に昇華する、歌舞伎の力を感じていただければ」 今年は松竹創業130周年。3月に「仮名手本忠臣蔵」、9月に「菅原伝授手習鑑」、10月に「義経千本桜」と「三大名作」が東京の歌舞伎座で通しで上演される。