「柔道の仲間がいるから母国に残っている」 戦禍のウクライナ若手柔道チームに日本の技を 五輪金メダリストらが支援
約1時間半の技の講習を受けた選手を代表して、昨年の23歳以下欧州選手権女子70㌔級2位のアナ・オリーネクさん(17)が感想を述べた。 「私も得意技は内股。きょう習ったことをウクライナに帰ってからも繰り返し練習して、身に着けたい。日本に来て、柔道の総本山である講道館で練習ができた。講道館発祥の地である上野の永昌寺にも行った。天理大でも穴井隆将先生(元全日本王者、ロンドン五輪代表)や丸山城志郎先生(元世界王者)に教えて頂き、素晴らしい経験が出来た」 それでも、このコメントの前には「今、ウクライナではロシアの攻撃で通常の練習は出来ない。同じ柔道選手でも、戦場に行っている選手もいる。ここにいる選手の半数の父親や兄弟は戦場にいる。私たちが今回日本に来て柔道が出来ることに感謝したい」と神妙な表情で語った。 来日メンバー中22人は首都キーウ在住だが、被害の大きい地域出身者も。残りの7人は、大きな被害の出ているロシア国境近くのチェルニヒウから参加していたという。指導陣を代表したスタルコバさんのインタビューに移ると、さらに深刻な状況を教えてくれた。 「ほとんどのウクライナ人で戦争の被害を受けていない人はいない。私たちの練習中にもミサイル攻撃が来る。家族や親せきが戦場に駆り出されている。選手はみんな柔道が大好きで生きがい。それで救われている。柔道をしていなかったら、残った家族と平和な国へ逃げたい思いがある。でも、柔道の仲間がいるから母国に残っている」 「ミサイル攻撃が続いていて、ストレスによる心身症で話が出来なくなった選手も出てきた。国を出て平和なところに行くと、ちゃんと話が出来るような状態に戻るが、帰国したらまた同じ症状になってしまう。日本にいる2週間は、女子の選手らは笑顔いっぱいだった。だが、帰国が迫ってくると、だんだんとその笑顔が減ってきた」と、辛そうに話した。 元々格闘技が盛んなウクライナは、柔道でもモデルとの兼業で有名な女子57㌔級パリ五輪代表ダリア・ビロディドらを輩出している。JOCがスポーツ庁から受託しているこの事業で、母国で十分な練習の出来ないウクライナの柔道チームを支援するのは、昨年に続いて2回目。全日本柔道連盟でもアスリート委員会が実施したオークションの収益を提供している。
ウルフは「僕たちが今、柔道をやれているのは当たり前ではない、と思った。何か出来ることがあるなら、との思いがきょうの指導。僕にとっても貴重な体験が出来た」と言った。 ウクライナだけでなく、世界中で紛争は絶えない。様々なことを考えさせられる招聘事業だった。 (竹園隆浩/スポーツライター)
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