単純労働が“不法就労”となるのはなぜ? 外国人労働者が厳格に仕事を「限定」される深い理由
日本が「選ばれる国」といえる理由
この法改正にあたっては、「外国人材に選ばれる国に」がキーワードとされている。技能実習では、ブラックな職場やブローカーによる高額な渡航費用などがたびたび問題となっただけに、そうした課題を解消することで、日本で働く魅力につなげ、他国に負けず、より優秀な人材を多数呼び込もうという思惑だ。 「技能実習では確かに、過酷な労働環境や渡航費用が問題になりました。実はそうした企業は外国人材に対してだけそうだったわけでなく、そもそもブラックな性質の職場だったんです。渡航費用の問題も、国際労働市場において、国と国のやりとりになるので中間業者は不可欠で、費用が高額になるのはそれだけ競争が激しい裏返しでもあるんです」と杉田弁護士は、国際労働市場の実状を明かす。 この問題は、日本の実状を点でみてもその本質は捉えられない。例えば、容易に外国人が出稼ぎできる国のひとつにカタールがある。同国ではなんと、1か月数万円の費用で就労できる。そのため、自国で十分に稼げない移民労働人材が同国に殺到するが、そこでは大きな代償が待ち受けている。 「カタールのW杯では多くのネパール人がカタールに出稼ぎに向かいました。ところが、多くの出稼ぎ労働者が死因不明のまま亡くなっています。要はカタールでは人材を”ダース”で考えているんです。そのため低コストで済んでいるという実態があります。育成という観点で外国人材を受け入れる日本のような国は国際労働市場でもまれな存在。安全も大きな付加価値となって、すでに日本は”選ばれる国”としての資質を備えているんです」(杉田弁護士)
毎年22万人の外国人労働者が流入する日本で持つべき発想
オフィス、建設現場、コンビニエンスストア、飲食店…。いまや、日常で目に触れるほとんどの施設や職場で外国人労働者を目にする。その裏では、入管法で必要な分野・人数を計算しながら、外国人労働者の出入りが管理されているわけだ。 「日本には毎年約22万人(※)の外国人労働者が流入しています。もう10年ほど前から日本は国際労働市場につながっているんです。1990年代まであったいわゆる新卒の60万人の労働力がゴッソリなくなったいま、外国人労働者はもはや日本にとって不可欠な存在。そのことは多くの日本人も肌感覚として理解しているのではないでしょうか」(杉田弁護士) ※「外国人雇用状況」の届け出状況(厚労省発表) 外国人労働者が毎年増え続ける一方で、少子高齢化で減っていく日本人…。法務省の最新データでは、2023年末の在留外国人の数は、341万992人(前年末比33万5779人、10.9%増)で、過去最高を更新した。ダイバーシティという言葉を使うまでもなく、日本が外国人労働者との共生が当たり前の社会へとシフトしていくことはもはや必然だ。だからこそ、と杉田弁護士は提言する。 「買い物をしたコンビニのレジに外国人がいたら、『この人はどんな国際労働移動のルートをたどってここにたどり着いたんだろうか』と少しでも意識してほしいですね。国際労働市場においては本当にひどい就労環境がある一方で、日本はとても安全な国。今後、日本を出て海外で働く人も増えていくだろう状況下で、そうした視点を持つことは国際労働市場をしっかりと理解する意味でもより重要になってくると思います」 閉鎖的国家・日本は今や昔。いわゆる外国人問題を考えるにしても、旧来の物差しでなく、抜本的な発想の転換が求められるタイミングにいま、さしかかっている――。
弁護士JP編集部