追悼。カープの鉄人・衣笠祥雄さん「骨折でもフルスイング」
心優しき男だった。 衣笠を嫌いという人間に出会ったことがない。ライバルと言われた山本浩二ともわかりあっていた。 筆者が何を書いても、時には批判しても、彼は「駒さん、元気!」と声をかけてくれた。彼と記事を巡っていざこざに発展したことは、ただの一度もない。 その昔、日南のキャンプ地には、広島から夜行列車で向かった。ある年のこと。衣笠は見慣れぬ大きなバッグを持ってホームに立っていた。 「サチ、それは何よ?」 私が聞くと、彼は、バッグを少し開けて嬉しそうに金色に光るものを見せてくれた。 トランペットだった。 「寮で吹くと迷惑がかかるんでね。日南キャンプなら思い切り吹けるでしょ」 彼のトランペットの音を聞かせてもらうことはなかったが、音楽を愛し本も愛した個性派だった。 生涯成績は、2677試合に出場(2215試合連続出場)、2543本安打、504本塁打、1448打点。タイトルは打点王1度、盗塁王1度、最多安打1度(当時はタイトル表彰なし)。 衣笠はサインを求められると「忍耐」という文字を添えた。 それは彼の野球人生そのものを表す言葉だったのかもしれない。 不滅の鉄人……背番号「3」。安らかに。 (文責・駒沢悟/スポーツライター)