有権者に毎日「100万ドルあげる」ってマジか…!イーロン・マスクがトランプを必死に応援する「本当の狙い」
ハイテク規制策を打ち出すバイデン政権に反発
マスク氏は自分がバイデン大統領から冷たくあしらわれたことに腹を立てただけではない。同氏とピーター・ティール、デイヴィッド・サックス氏ら、いわゆる「ペイパル・マフィア」と呼ばれるシリコンバレーの有力投資家・実業家らは、バイデン政権のハイテク政策全般に不満を募らせていた。 たとえばバイデン政権下のSEC(証券取引委員会)は暗号通貨を厳しく規制する政策を打ち出し、これが後に大手交換業者FTXの破綻や同社サム・バンクマン・フリードCEOの逮捕・起訴、そして有罪判決につながったと見られている。 また同じくバイデン政権下のFTC(連邦取引委員会)はグーグルやマイクロソフト、メタなどビッグテックに対して反トラスト法(独禁法)を厳格に適用し、最近ではAI(人工知能)やそのベースとなる半導体GPU(グラフィクス・プロセシング・ユニット)など次世代技術も規制する姿勢を見せ始めている。 これら一連のハイテク規制策にマスク氏らペイパル・マフィアは反発し、やがてトランプ支持で結束していくことになる(ただしペイパル・マフィアの中には、リード・ホフマン氏らいまだに民主党を支持している有力投資家も残っている)。 ティール氏らはトランプ陣営やそれを支援するスーパーPAC等に巨額の政治資金を提供する見返りに、ティール氏自身が育て上げたベンチャー・キャピタリストであるJ.D.ヴァンス氏を副大統領候補として送り込むことに成功した。
掌返しのトランプがシリコンバレーの支持を奪取
トランプ氏は2016年に大統領に初当選してからしばらくは、当時のフェイスブック(現在のメタ)やツイッター(現在のX)に対し「保守派の意見を抑圧している」などと批判していた。 特にフェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOに対しては、名指しこそ避けたものの「選挙詐欺を働いた者を刑務所にぶちこむ」などと暗に脅したとされるが、最近ではこれらハイテク企業の高まる政治力を認め、彼らを懐柔する姿勢へと転じた。 一方、暗号通貨に対しても、かつてはビットコインを「詐欺」と断罪するなど厳しい姿勢で臨んでいたが、最近ではその姿勢を180度転換して「自分が大統領に再選された暁には、アメリカを暗号通貨王国にする」などと宣言している。 トランプ氏はまた、AI技術を基本的に規制しないという方針を打ち出している。最近では反トラスト法訴訟の有罪判決で企業分割の危機に晒されているグーグルについても、世界市場における米国企業の競争力を維持するために「自分が大統領に当選したらグーグルは分割させない」とする旨を表明している。 これらのことから、ペイパル・マフィアなど有力投資家・実業家らは「バイデンに比べればトランプの方がまだマシ」という見解で一致した。これまで選挙広告が有権者に与える影響についての分析等では民主党やそのスーパーPACに軍配が上がると見られてきたが、彼らシリコンバレーのハイテク事業家・投資家たちはITを使った世論分析などを駆使して共和党の優位性を確立しようとしている。 中でもマスク氏は2022年に440億ドルという巨額の買収で手に入れた「X(旧ツイッター)」をフル活用して選挙戦に臨んでいる。今年7月に民主党の大統領候補がバイデン氏からカマラ・ハリス氏に切り替わると間もなく、ハリス氏が自身を「究極の人種多様性候補」と自虐的に呼ぶディープフェイク映像をマスク氏がX上で拡散させるなどして物議を醸した。また翌8月には、マスク氏がX上でトランプ氏をインタビューして世界的な話題となった。 マスク氏に買収されて以降のXは広告主の離反を招くなどして黒字化の目途が立っていないが、マスク氏はもはや事業を度外視して、Xを自分やトランプ氏の声を有権者に届ける政治的な拡声器として割り切って使っている感もある。