REBECCA、DREAMS COME TRUEのデビュー・アルバムから読み解く女性のロックのはじまり
一番違ったのは“多幸感”
週に1度の恋人 / DREAMS COME TRUE 1989年3月21日発売、DREAMS COME TRUEのデビュー・アルバム『DREAMS COME TRUE』から「週に1度の恋人」。デビュー・アルバムが自分たちのバンド名だったんですね。レコード会社やバンド側に俺たちの名前でデビューしたいというのがあったんでしょうね。最初から自分たちの全体像を見せつけてやるみたいな、そういう気合いを感じます。「週に1度の恋人」は作詞も作曲も吉田美和さん。週に1度しか会えない恋人のことを歌っているんですけど、あらためて聴いてみて、随分切ない歌だったんだなと思いました。切ないというよりも、どこか痛々しいものがある。週に1度会える幸せな時間に胸をときめかせているという歌じゃないんですよ。ドリカムの音楽には胸をときめかせながら、足元も軽く街を闊歩しているみたいなイメージがあったんですけど、これは違いますね。怯えているんですね。何に怯えているかと言うと、さようならを言われないかということに怯えている。言われたとしても泣き崩れないように自分を励ましている、強がっている。そして、アルバム『DREAMS COME TRUE』もやっぱりそういうどこかはじけてないという言葉が適切かどうかはわからないんですけど、そんなに幸せいっぱいな歌っていうのはあまりないんだなというのがあらためての第一印象でした。 Don’t You Say... / DREAMS COME TRUE 1989年3月発売DREAMS COME TRUEのデビュー・アルバム『DREAMS COME TRUE』から「Don’t You Say...」。何よりも冒頭のフェイク、吉田美和さんのあの歌いっぷりですね。明らかに当時から、えっ、この人誰? という感じがありましたね。冒頭でデビュー・アルバムにその人のすべてが凝縮されているという言い方をしましたが、原石なんですよ。磨かれる前の石なんです。いろいろなところにまばゆい輝きは織り込まれてはいるんですけど、それぞれの光り方がバラバラだったり、同じ方向を見ていなかったり、色が違ったりする。 このデビュー・アルバム『DREAMS COME TRUE』は全11曲なのですが、中村正人さんの書いた曲は1曲だけで、他は吉田美和さんの詞曲なんですね。デビューアルバムの一つの作り方にアマチュア時代の曲を集めるというのがありますね。こんなにいい曲があるんですよというのをメジャーの世界でプレゼンする。それがこのアルバムだったんでしょう。シングルで発売になった『あなたに会いたくて』。これがメジャー・デビューのときに書いた曲で、やっぱり洗練のされ方が違う。メジャー度が違うと言っていい。アルバムでは他も全部女性の気持ちを歌ってはいるんです。70年代のユーミンに始まり、みゆきさんもそうですけども、女性アーティストが自分たちの気持ちを歌う。バンドではその前にREBECCAもあったわけで、そういう流れを踏まえてはいるのですがやっぱりどこかもどかしいものがある。この「Don’t You Say...」も愛していると言わないでと歌っているんですけど、何でかと言うと、好きすぎてどうしていいかわからないから愛していると言わないでくれ。キスも出てくるんですけど、キスをされると私が動けなくなっちゃう。幸せなキスじゃないですね。自分の中の動揺とか戸惑いとか疑心暗鬼とか、自分を信じきれない気持ちが歌われている。これはアマチュア時代の彼女が、それからDREAMS COME TRUEがそういう状態だったというふうに思わざるをえませんね、と決めつけておりますが(笑)。次の曲もそういう歌ですね。「エメラルドの弱み」。 エメラルドの弱み / DREAMS COME TRUE これもまだ相手の気持ちがわからないという状態ですね。友だちと取り合っている。自分に自信がない。自分の性格が裏目に出るんじゃないかとまで思っちゃっている。そういう自分に自己嫌悪を感じているとても切実とした気持ちが歌われています。同じ“♭WOWWOW~”というフェイクもその後の“♭WOWWOW~”じゃないですもんね。 1989年3月に一枚目『DREAMS COME TRUE』が出て、11月に2枚目のアルバム『LOVE GOES ON』が出るんですけど、1年間にこんなに色の違うアルバムが2枚出てる。デビュー前、デビュー後、プロ以前以降というのがはっきり分かれる2枚ですね。このアルバムからは「あなたに会いたくて」と「アプローチ」がシングルA面、B面になっていて2枚目のアルバム『LOVE GOES ON』からシングルが1989年2月に2曲出るんですね。それが「うれしはずかし朝帰り」と「うれしい!たのしい!大好き」。僕はここからなんですよ。これで、え! なんだろうこの人たちと思った。 一番違ったのは“多幸感”ですよ。今でもドリカムを語るときに“多幸感”という言葉が使われておりますが、“幸せな私”が歌の中に弾けている。あっけらかんとして明るかったんですね。朝帰りをあんなふうに歌った歌は空前絶後ですよ。こんなふうに今の女の子は思っているんだということで、ひっくり返りました(笑)。そういう始まり方の前がこのアルバム『DREAMS COME TRUE』ですね。デビューしたときにどういう状態だったかということを知りたい方はこちらの方を聴くと、そうかと思われることもたくさんあるんじゃないでしょうか。この曲にキスが出てくるのですが、こういうキスなんです。「悲しいKiss」。 悲しいKiss / DREAMS COME TRUE 儚い美しい曲ですね。ファンの人たちの中でこの曲の支持が高いのはわかる気がしますね。吉田美和さんはシャーマンのようなステージを見せてくれる人で、どこか違う世界と交信しているのではないかと思わせてくれるぐらいエモーショナルな女性に見えるわけですが、そういうステージに立っている吉田美和さんとは違う、とても傷つきやすくて寂しがりやでいろいろなことに悩んだりする素の姿がこのアルバムにあったりするのではないかなとあらためて思いました。そういう意味ではこの「悲しいKiss」がファンの人たちにそうやって聴かれているのも納得ですね。僕もドリカムのベストバラードを選ぶとしたら、この曲を選ぶかなと思って聴いておりました。デビューの年に2枚のフル・アルバムを出して、どんなふうにアーティストが成長していくのかということを見事に残してくれた、環境が変わって自信が出てきて、自分が伝えたいことが思い切り伝えられるようになる、そんな変化がこの2枚のアルバムにあります。 後半はREBECCAです1984年4月発売、デビュー・シングル「ウェラム・ボートクラブ」。