「DNAの大半が”遺伝情報”を持たない理由」を完璧に説明する衝撃的な”発想の転換”…「遺伝子」は「人間」のために存在しているのではなかった!
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第23回 『“人間”が利他的なのは“遺伝子”が利己的だから!?…生物学者が唱えた「モラルと進化の謎」を紐解く衝撃の視点』より続く
DNAの大半は働きを持たない!?
ニワトリが新しいニワトリをつくるために卵を産むのではない。卵が新しい卵を産むために、ニワトリをつくるのだ。進化では遺伝子が重要であることは、すぐに理解できるだろう。 進化は、遺伝子(正確には対立遺伝子)の世代間における相対頻度の変化として単純に“定義”されることも多い。選択と変異の気まぐれの対象は個体としての生物ではありえないことは、容易に理解できる。 そもそも進化できるのは、自分自身のコピーをつくり、時間とともに繁殖成功率を高め、特定の変異を蓄積できる存在だけなのだから。木から生まれるのは古い木のコピーではなく、新しい木だ。厳密に言えば、遺伝子だけが複製する能力をもつ。 無慈悲な生存競争としての進化論をつらい気持ちで受け入れた人にとっては、ここからの話はさらに悲痛に感じられるだろう。もし、前記のような遺伝子中心の考え方が正しいのなら、そもそも進化するのは「私たち」ではないのである。 私たち人間は、自己複製する遺伝子を厳しい自然から守るために、35億年の突然変異と選択をへて改善されてきた精巧なロボットに過ぎない。その証拠に、人間のDNAの大半が働きをもたず、ただの穴埋めとして機能している。これら一見無意味な「ジャンクDNA」は、いったい何のために存在しているのだろうか?
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