江夏豊氏・伝説のオールスター9連続奪三振…そのとき捕手・田淵幸一氏がひそかに考えていた作戦とは? キャッチャーになった驚きの理由
プロ初打席で三球三振も…
徳光: 六大学の大スターから阪神の1位指名、それで新人王を取るわけですよね。開幕戦から出てたんですか。 田淵: 開幕の大洋戦は9回に代打だったんです。ピッチャーは平松(政次)。 「よっしゃ、俺もついに社会人として一歩を踏み出すな」と思って、大歓声の中でバットを高く持って大きく構えた。そしたら、平松が投げたボールが見えなかったんですよ。 「俺、あがってんのかな」と思って、タイムをかけて仕切り直した。でも、また見えなかったんですよ。「なんじゃこりゃ」と。プロのピッチャーは球が速いの。結局、1球も振らないで三球三振。 田淵: その晩、宿舎に帰ったときに藤井(勇)バッティングコーチが、「田淵、ちょっとバット持って屋上に行こう」って言ってくれた。「そんな構えじゃ、ボールが来たら、もう間に合わない。ちょっとバットを下げろ」と。言われた通り、次の日にバットを下げたらホームランが出た。 徳光: 2打席連続ホームランですよね。 田淵: そうそう。「バットを構える位置、少しだけの差で、バットを最短距離で出すことができるんだ」って。 徳光: 出会いの不思議さを感じますけど、藤井さんはその日、よく田淵さんを屋上に呼びましたよね。 田淵: だから恩人ですよね。私はもう藤井さんには頭が上がらない。
サインに7回首振った江夏氏
徳光: 田淵さんがマスク被って、江夏さんがピッチャーのときなんか、ほとんど負ける気がしなかった。江夏投手の優秀さはどんなところにあったんですかね。 田淵: まず、頭がいい。対戦相手が何を狙ってくるか、そういう読みですよね。 それから、こいつは高めが弱いからストライクゾーンのちょっと上で振るとか癖をよく知ってるんですよ。 江夏氏は入団2年目の昭和43年に401奪三振を記録。プロ野球史上最多記録だ。 徳光: あのときは、ほとんどストレートで三振を取ってたんですか。 田淵: ほとんどそうですよ、ストライクゾーンの中で、上下の出し入れ、横の出し入れ、これだけですよ。1ミリか2ミリ外れたとかね。そういう感じのピッチャーなんですよ。 徳光: 江夏さんは田淵さんより年下なのに、田淵さんに対してタメ口ですよね。 田淵: 「ブッさん」とか「ブッちゃん」とかさ。「あれ? 俺のほうが先輩なんだけどな」とも思ったけど、「田淵さん」なんて言わったら、こっちが気持ち悪い。 徳光: そういう方で、その生き方を貫き通してますね。その貫き通し方はピッチングにも現れてましたか。 田淵: 絶対に現れてます。 王さんの構えがクッてはまったとき、江夏はサインに7回首を振ったんですよ。 後で、「お前、サインは1つか2つしかねえだろう。真っすぐと緩いカーブしかねえのに、なんで7回も首振るんだよ」って言ったの。 田淵: そしたら、「王さんがピシッと構えてるときに投げたら、打たれるのが当たり前だろ。首を振り続けたらタイムをかける。王さんにタイムをかけさせるのが俺の手なんだ」。野球ってその駆け引きなんですよ。 徳光: なるほど、これはプロの話ですね。
【関連記事】
- 【前編】長嶋茂雄氏は打席でズルしていた!? 稀代の“ホームランアーチスト”田淵幸一氏が語ったON秘話 実は巨人から「背番号2」を約束されていた
- 【後編】親友にして盟友・星野仙一氏との絆…田淵幸一氏が明かした2人だけの関係 ライオンズへの衝撃トレード…そのとき後輩・掛布雅之氏にかけた言葉
- ホームラン量産の秘密は「腰痛」!? 広島カープのレジェンド “ミスター赤ヘル”山本浩二氏が語る内角打ちのコツ
- 「2塁を見ずに投げる」V9 戦士“壁際の魔術師”高田繁氏が明かすクッションボール処理の秘密と川上監督が長嶋茂雄氏に激怒した裏話
- ON全盛期に「4番センター柴田」巨人V9 戦士“赤い手袋”柴田勲氏も驚いた! 川上監督が考えた苦手投手攻略の秘策