黒田剛「ダメなリーダーは、自分のタイミングで、自分の言いたいことを、一方的に伝えているだけ」【町田快進撃の秘密⑥】
マイナスの感情に人は心を動かされる
太田 黒田さんは、アメとムチの使い方がすごくうまいですよね。 ちょうど1年前のブラウブリッツ秋田、アウェー戦は、チームとしても絶対に勝たなきゃいけない一戦で、先制したのに、追いつかれてしまった。 失点して、チームの雰囲気が落ちていった時って、ほとんどの監督が、自信を持たせるためにポジティブな声掛けをすると思うんですけど、2対1と逆転して迎えたハーフタイムで、黒田さんは、もうムチムチ、ムチくらい厳しい言葉をかけて、ロッカールームの空気感を引き締めてくれたんですよね。苦しい中で厳しい言葉をかけられたことで、「もっとやらなきゃいけない」「この試合を落としたらヤバイ」という感覚にさせられたこと、今でも覚えています。おかげで残り45分、ものすごいいいゲームができて、この試合を含め、5連勝することができました。 このアメとムチの使い分け、タイミングの見極め方はすごいなと。 黒田 不安な時に、根拠なく「自信を持て」と言われても、不安は解消されないと思うんです。自信がないから、不安になっているわけだし。だから、そういう絵にかいた餅というか、漠然とした根拠のない導き方は嫌いなんですね。 この試合で負けたら、失うものはどんなものなのか。たとえば、家に帰った時に奥さんが涙を流す顔だったり、子供の「お父さん、勝てなかったね」というさびしそうな顔を思い出したりね、そういう「失うものがあるんだ」と思う方が、「絶対にやってやる」という気持ちになれると思うんですよ。 前に話した通り、僕は30年間教師をやってきたけれど、時代は変われど、変わらないのは「感情」。それも、悲劇的なマイナスの感情の方に、人は心を動かされるんです。「悔しくないのか」とか「ダメだ」という言葉をかけるといった単純なことではなくて、もっと頭と心に呼びかけるように、その悲劇をちょっと煽るというのかな。それが、今の世代の選手たちをマネジメントするには、すごく有効ではないかと、経験上実感しています。 ※7回目に続く。 黒田剛/GO KURODA[右] 1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業勤務等を経て、1994年、青森山田高校のコーチとなり、翌年教員、そして監督に就任。以降、全国高校サッカー選手権26回連続出場、 同大会を含む計7回の日本一という偉業を達成する。2023年、FC町田ゼルビア社長、藤田晋氏に請われ、同チームの監督に就任。2023シーズンの優勝、J1昇格に導く。 太田宏介/KOSUKE OTA 1987年東京都生まれ。ジュニアユース年代をFC町田(現・FC町田ゼルビアジュニアユース)で過ごし、2006年、横浜FCでプロデビュー。その後、オランダのSBVフィテッセやFC東京など国内外のチームを経て、2022年、FC町田ゼルビアに加入。2023年のJ1昇格に貢献し、現役を引退。現在、チームのアンバサアーとして宣伝担当を担い、解説やサッカー教室など幅広く活動する。
TEXT=村上早苗