米国の軍事力を頼るままでいいのか?欧州に必要な5つの要素、日本も備えておくべきこと
ドイツの防衛問題専門家によれば、欧州は、米国の助けなしに通常戦力によって戦われる紛争でロシアから欧州を守ることはできないであろう。軍需産業の関係者は、ポスト冷戦期に衰退し、ウクライナ救援のために武器庫が目減りしてしまった軍を再建するためには10年を要し、まずまずの状況に持って行くためだけでも3、4年間、軍事予算と軍事生産を拡大する必要があると指摘した。 確実性と安定性を作り出すためには、軍事予算の拡大が必要であるが、NATOは新たな高い目標を掲げるかどうかをまだ議論している状況である。「欧州の共通防衛はまだ願望に止まっている。気持ちだけでは十分ではない。実際の行動が求められている」と欧州の識者は指摘する。 * * *
米国抜きのロシア対抗
ウクライナの戦況、米国の政治状況を踏まえて、欧州は米国が当てにならない中でどのように自らを防衛するかの問題に直面していることを指摘する論説である。米国大統領選挙におけるトランプ当選の可能性が一つの要素であるが、それだけではなく、米国の連邦議会での分断によって対外支援について国論がまとまらない状況が拍車をかけている。 当面の問題は、米国の対ウクライナ支援が滞る中、欧州がそれをどの程度、肩代わりできるのかであるが、より根本的で厳しい設問は、ロシアの侵略がウクライナで止まるとは思えない中、米国の助けなしに欧州はロシアから自らを守ることができるか、である。 理論的な可能性として、欧州が米国抜きにロシアに軍事的に対抗することを考えると、少なくとも次の五つの要素が不可欠と思われる。(1)継戦能力を備えた通常戦力、(2)多様なレベルのエスカレーションに対応できる核戦力、(3)軍事的・政治的リーダーシップ、(4)モラルが高い大規模な戦闘人員、(5)不正規戦から電子戦までの幅広い戦線で戦うことができる練度の高い軍事組織。 この論説では、これまでの米欧間の議論の経緯もあり、(1)の通常戦力を拡充するための軍事予算確保に焦点を当てているが、それを本格的に進めるには時間がかかる。さらに、これはロシアに軍事的に対抗するための必要条件ではあろうが、十分条件であるわけではない。前記の項目はいずれについてもかなりハードルが高いと言わざるを得ないが、特に難度が高いのが、(2)の核戦力と(3)のリーダーシップであろう。 核戦力について言えば、欧州では英仏の核戦力があるが、まず、自国の存亡の危機のためではなく、欧州の共同防衛のために動員できるかの点がある。さらに、地域的な危機に際する多様なエスカレーション・シナリオに対応できるような核戦力構成になっていない。
【関連記事】
- 【戦時下のモスクワ】国外脱出でしぼむ若者の声 開戦4カ月で市内の反戦ムードが沈静化した理由 根強い中高年層の「戦争賛成、プーチン支持」の現実
- 【オスプレイ墜落の真相】佐賀への配備が絶対に必要な理由と、超えるべき課題...現地を視察して見えてきたこと
- 【広がるナワリヌイの遺志】プーチンが恐れた男が遺した意味深な言葉、大統領選前に追悼の動きを弾圧―政敵を死に追いやる暗黒の歴史―
- なぜロシア人は「ウクライナはナチス」と信じるのか? モスクワで見た、プーチン政権の「歴史」と「戦争」の歪んだ教育……ソ連の栄光を学ばせられる小学生
- <EU崩壊の懸念>極右派の躍進で訪れる移民、気候変動、貿易での混乱の恐れ、注目すべき欧州議会選挙の行方