<自動車>機能が形を生む「和デザイン」 階級社会の欧州とは真逆の手法
繰り返しになるが、現在のクルマ作りにおいて、大きな制約条件になっているのは労務管理だ。デザインだけでなく、走行実験などもどんどんシミュレーションだけになっていくトレンドはすでにはっきりしている。そういうメーカーに本当にシミュレーションだけで大丈夫なのかと聞いても当然のごとく「大丈夫だ」と答えるのだが、筆者は個人的に「そんなはずは絶対にない」と思っている。 それはデザインスタジオの田中秀昭氏の一言で腑に落ちた。「CADだけでデザインができるって言う人は、目の前でモデラーがたったひと削りクレイを削って、全く別のものになるという経験をしたことがない人だと思いますよ」。ここで言うクレイのひと削りとは、CADで上がってきた形を否定してやり直すという意味ではない。冒頭で玉川堂の社長が言った「職人の頭の中にある形」との差を削り取る作業である。モデラーの手はコンピューターの合理的な形を「凛と艶」の凝縮された形へ変えることができるのかもしれない。
今回の取材で聞いた話を俯瞰すれば、マツダは職人の手作業という、ある意味、前近代的な手法を再評価することで、2015年のインダストリーの中で、日本らしいオリジナルのデザインを短期間、かつローコストで実現する新たな方法を見出したことになる。属人技術のシステム化という新しい手法に筆者は目から鱗が落ちる思いだった。 10月30日から始まる東京モーターショーにマツダがどんなモデルを出してくるのかが楽しみだ。第6世代の魂動デザインはすでに主要モデルのラインナップが完成している。「もしかして第7世代が始まるんですか?」という問いに、マツダの人たちは笑いながら「どうでしょう?」と答えた。 (池田直渡・モータージャーナル)
■玉川堂(ぎょくせんどう)とは?
200年の伝統を持つ玉川堂は、鎚起銅器のメーカーとして名高い。自治体や省庁から文化財などの指定を受けるほか、皇室献上品にもなっている。 一枚の銅板を手作業で叩くことで複雑な形を作り出し、やかんの口も別パーツにすることなく一枚の板から叩き出すことができる。 金属は叩くことで加工硬化が起こり硬くなる。叩いても形が変わらないほど硬くなると炉にくべて焼きなまし作業を行う。こうした作業を経て造形された器は、薬剤によって彩色されて製品となる。一週間かかって作られるやかんは35万円の正札が付くが、東京青山の直営店ではバックオーダーになるほど売れるのだと言う。