《安倍政権5年》「仕事は増えた」好調な中部地方 モノづくり現場の訴え
しかし、「問題は賃金や人手不足などの数字ではない」と見本市の出展者の一人は指摘します。 「この5年で見ると、現場の労働者の質がガラッと変わった。背景にあるのは労働者派遣法。モノづくりの現場に短期の非正規雇用者が圧倒的に増えたことにある」 労働者派遣法は第2次安倍内閣発足直前の2012年10月、日雇い派遣の原則廃止などを盛り込んだ改正法が施行。安倍内閣になって15年9月に再改正し、派遣受け入れの上限を3年とする派遣期間の見直しや雇用安定措置の義務化などが進められました。 自民党は安倍政権の5年間で、就業者数が185万人増加したとの実績を誇っています。しかし、雇用者全体に占める非正規雇用の割合は、2012年の35.2%から減ることはなく、16年には37.5%に達しています。 「そうした影響が今、現場で著しい。必要なスキルを持った技術者が育たなくなり、創造性のある仕事ができる人材の行き場がなくなってしまった。このままでは世界との競争になんか勝てるはずがない」と出展者は訴えました。
大量消費時代から発想の転換
状況を脱却するため、業界では結束して人材育成に取り組む動きが出てきています。 愛知県と岐阜県を中心とした部品加工メーカー約70社は昨年、「中部部品加工協会」という非営利活動法人を設立。これまで個々の社内で取り組んできた人材採用や教育研修などのノウハウを共有し、全体の底上げを図るネットワークです。中小企業の若手経営者らが中心ですが、大手もサポートに加わっています。 「現場はIT化や自動化も進んでいますが、モノづくりの経験と技術を蓄積していくにはリアルな顔の見えるネットワークが必要です。今の若手の技術者が30代、40代になっても能力を発揮できる仕組みをさまざまにつくっていかなければ、日本のモノづくりに未来はありません」と村井正輝代表理事は強調します。 日本経済が大量生産、大量消費で成り立っていた時代には、人材もベルトコンベヤーに対応した「数」が必要でした。しかし今、世界で勝負するには斬新な発想や創造性、問題解決能力のある人材の「質」が求められています。 この課題は、今まさに日産や神戸製鋼で生じている問題と通じるような気がしてなりません。その変化に、政治も対応できなければならないでしょう。
------------------------------ ■関口威人(せきぐち・たけと) 1973年、横浜市生まれ。中日新聞記者を経て2008年からフリー。環境や防災、地域経済などのテーマで雑誌やウェブに寄稿、名古屋で環境専門フリーペーパー「Risa(リサ)」の編集長も務める。本サイトでは「Newzdrive」の屋号で執筆