「原田裕規:ホーム・ポート」(広島市現代美術館)開幕レポート。円環のなかで見つめる「わたし」
美術館で初の大規模個展 2012年に「ラッセン展」や「心霊写真展」の企画で鮮烈なデビューを飾り、いまも精力的な活動を見せる原田裕規 。その美術館における初めての大規模個展「原田裕規:ホーム・ポート」が、広島市現代美術館で幕を開けた。 原田は1989年山口県生まれ、広島県育ち。16年に東京藝術大学大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻を修了。19年以降は断続的にハワイに滞在し、ピジン英語に代表されるトランスナショナルな文化的モチーフに着目した作品を発表してきた。 単著『評伝クリスチャン・ラッセン』(中央公論新社、2023)、『とるにたらない美術』(ケンエレブックス、2023)、編著『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社、2013、増補改訂版=2024)などの書籍でも知られているほか、 23年には「TERRADA ART AWARD 2023」でファイナリストに選出され、審査員賞(神谷幸江賞)を受賞 。いま、もっとも勢いのあるアーティストのひとりと言っても過言ではないだろう。 本展は、1989年に開館した広島市現代美術館と同い年である原田にとって記念碑的な展覧会だ。 展示構成は、「プロローグ/エピローグ 影を追いかける」で始まり(終わり)、「見ることの力」「何かを待つような感覚」「夢のような光景(ドリームスケープ)」の3章で構成されている。 プロローグ/エピローグとなるのが、「シャドーイング」シリーズ(2022-)だ。複数の映像によって構成される本シリーズは、ハワイの日系アメリカ人をモデルに生成したデジタルヒューマンが、ハワイで使用される日本語混じりのピジン英語で語るもの。ハワイの日系アメリカ人と原田の声が重なるこの作品には、「私自身」にまつわる、あるフレーズが繰り返される。 どこへ行っても、何をやっても、私は私から逃れることはできない 私自身はどこにも行かない 私自身はいつもそこにいて、まるで影のように、私が戻ってくるのを待っている(《シャドーイング》より抜粋)
文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)