怖い“集団催眠”専業主婦年金3号はお得でズルイ
もっとも、給付水準を長期にわたって確認、比較するために(現時点での標準報酬の平均値で40年間勤務するという一定の架空の前提を置いて)法律で規定された片働き世帯の年金が「モデル年金」と呼ばれてきたが、この名前は誤解を招き、無用の混乱を生んできた。法律上の名称ではないので、変える余地がある。 ■社会保険とは似て非なる国民年金1号 ──国民年金1号に対する評価は? 1955年体制の下、社会党の勢力の拡張を恐れていた自民党は、国民皆保険・皆年金を掲げるのだが、所得を把握することができない自営業者や農業者、そして無職の人たちにまで、応能負担・必要給付という社会保険の原則を適用できるはずがない。
そこで、1961年に概念上は社会保険とは似て非なる、定額払い・定額給付、つまり応益負担の国民年金(現在の1号)制度が始動した。 当時の年金局長は、「国民の強い要望が政治の断固たる決意を促し、われわれ役人のこざかしい思慮や分別を乗り越えて生まれた制度」と言っていたが、そのとおりだろう。普通に考えれば、技術的にできない。 『ちょっと気になる社会保障 V3』(195ページ)に書いているように、「野党や研究者から見れば攻めるにやさしい年金行政のアキレス腱が生まれる」ことになる。
しかも、産業構造の変化の中で被用者以外の人たちからなる当時の国民年金の被保険者は減少するのだから、持続可能性を持ちようがない。 そのため1985年に、それまでの国民年金の給付を基礎年金と呼び、同時に厚生年金の定額部分を2人分の基礎年金と読み替えて両者を一元化し、被用者とそれ以外の人たちの間で財政調整をすることとした。その時使われた理由はこうである──被用者年金の被保険者の親は農業者や自営業者の国民年金に入っていることも多いだろう。そうした国民年金を、被用者を含めた国民みんなで支えるのは当然ではないか。
ポイントは、第1号被保険者は、世界にもめずらしく国民皆年金保険を強引に目指したために生まれた、社会保険制度としては応益負担で運営されている、いびつな存在であるということだ。そして3号に言われる、いわゆる年収の「壁」があるのは、1号が存在するからでもある。しばしば、適用拡大は3号を減らすために行われるかのような論をみるが、1号を縮小するのが主眼である。 さらに、国民年金にしか加入していない第1号被保険者の運営原則と、厚生年金にも加入している被保険者2号、3号の運営原則はまったく違う。ゆえに、両者を比較することはできず、混乱を招くだけである。