「地図バカ」が教える「等高線」誕生の歴史。立体を平面に表現する技法が発明されたワケ
地図を読む上で欠かせない、「地図記号」。2019年には「自然災害伝承碑」の記号が追加されるなど、社会の変化に応じて増減しているようです。半世紀をかけて古今東西の地図や時刻表、旅行ガイドブックなどを集めてきた「地図バカ」こと地図研究家の今尾恵介さんいわく、「地図というものは端的に表現するなら『この世を記号化したもの』だ」とのこと。今尾さんは、「いざという時に等高線が読めないと、命に関わる」と言っていて―― 。 【書影】「地図バカ」こと今尾恵介さんが、地図記号の奥深い世界を紹介する『地図記号のひみつ』 * * * * * * * ◆等高線は読めますか? 等高線。誰もが学校で習うはずなので言葉の知名度は高いが、地図にびっしり描かれたこの曲線を読んで頭の中に地形を再現するのが得意な人は少ないようだ。 それでも山岳部出身者はこれをきちんと読める(はずである)。 いざという時に等高線が読めないと、命に関わるからだ。 私はその種のサークルに入った経験がないのでこれは想像だが、筋力トレーニングと並行してその読み方を叩き込まれているに違いない。 彼らの中には等高線のことをコンターと呼ぶ人もいるが、これは英語(contour)で、輪郭を意味する。 地形をこの線でなぞるという発想なのだろう。 ついでながらドイツ語では「高度線」(Hoehenlinie)、フランス語だと「水平曲線」(courbe de niveau)など着目点が少しずつ異なっていて興味深いが、国土地理院の前身である戦前の陸地測量部ではフランス語を直訳したかのような「水平曲線」と呼んでいた。 明治の初期にフランス式で地図を作っていた名残なのかもしれない。
◆等高線は誰でも慣れれば読める 山に登ることもなく子供の頃から家で絵ばかり描いていた私が、等高線と最初に出会ったのは中学1年生の社会科の授業であった。 入学式からまもない4月の授業で、先生に見せてもらった本物の2万5千分の1地形図の精緻さに大いに魅せられたのがこの世界に入るきっかけである。 それからは宿題でもないのに住んでいた横浜から東京にかけての地形図をせっせと買い、帰宅してからは時間を忘れて図に描かれた等高線を眺めては現地の風景を想像していた。 そんなわけで自然に読めるようになり、以来どんな等高線を前にしても現地の起伏がだいたい目に浮かぶ。 嫌みなことを承知で言えば、「読めない」という感覚がわからない。 これは幼少期から音楽のレッスンを続けて絶対音感を獲得した人が自然に音程を把握できるのと似ているかもしれない。 私には絶対音感がないので、茶碗に何かが触れて鳴った音を聞いて「少し低めだけどソのシャープ」などと断言する彼らの感覚は理解できないが、それと違って等高線は誰でも慣れれば読める。