松本吉弘、初のセミファイナル敗退に「もうあんな思いは本当にしたくない」史上初5年連続3ケタプラスで目指すV奪還ロード/麻雀・Mリーグ
6年目で初めてファイナルシリーズ進出を逃した際、チームのエースとも呼べる活躍をした男には大きな虚無感に襲われた。プロ麻雀リーグ「Mリーグ」渋谷ABEMASの松本吉弘(協会)は昨シーズン、ファイナルを悔しい気持ちに包まれたまま見ていた。「もうあんな思いは本当にしたくない」。チームメンバーの中で誰よりも雪辱に燃える松本が、5年連続3ケタプラスという偉業とともに、V奪還を目指す。 【映像】役満より美しい!?松本吉弘、手役だらけの倍満ツモ ―チームはファイナル進出を逃したが、松本選手は4年連続で3ケタプラスと好成績。一時期はMVP争いもした。自身としては、どういうシーズンだったか。 松本吉弘(以下、松本) 4年連続3ケタプラスは、僕しかいないと聞きました。それに関しては「評価したい」ではありませんが、自分の自信にはなりました。シーズン中も戦い方において、各個人で気にする人がいると思うんですよ。負け過ぎていると、「これ以上やったら、視聴者の人にどう見られる」とか。「チームメイトにどう言われる」とかを気にするのが、僕は一切なくなった。好き勝手できるメンタルを手に入れたので、自分の自信には繋がりました。今はプレーによって「何か言われるかも」と気にする悩みは一切、なくなりました。 チームとしては去年、初めてファイナルに行けなくて。たぶん今まで僕ら4人は感じていなかったと思いますが、ファイナルをただテレビで見ているとか、SNSで流れてくる「うわっ、すごいプレーだ」とか「すごい試合だった」とかを眺めるのは、とんでもなく虚しい気持ちになるんだな、と。他の3人に聞いていませんが、僕は特に。悪く言うと、かなりむしゃくしゃしました。悲しい気持ちと、「何でここにいないんだ」という怒りですね。 僕は元から、MリーグでもMリーグ以外でも、いい試合に携われていないと悔しい気持ちがすごく芽生える人間ですが、最後は虚無感みたいなものに襲われたので、もうあんな思いは本当にしたくない。5年間、1回もそういう気持ちを味わわなくて、他にもっと悔しい思いをしたシーンもあるかもしれませんが、贅沢な悩みかもしれませんが、この気持ちはもう味わいたくないな、と思いました。 「絶対に勝ちたい」というわけではなくて、「もう、絶対に負けたくない」という気持ちが強いです。なので、個人の成績としては評価したいですが、まだ足りない。もっと自分が勝てば、こんな気持ちを味わわなくて済んだし、チームメイトにこんな気持ちを味わわせなくても済んだ。ABEMASのファンが「もう、見るのをやめる」とか、「もう、見たくない」とか、何なら敵チームのファンが「何だよ、ABEMASいねーのかよ」となっているのを見て、より長く画面に映りたいです。それがたとえ負けたとしても。最後までいるのが我々でありたいな、と思いました。 ―ファイナルはどういう状況で観戦したか。 松本 仕事が終わった後に見直すとか、リアルタイムで見られる時は何か作業をしながら見たりとか。麻雀が好きで見ますし、自分たちが戦った行く末を見たいですが、正直、「見たいな」という気持ちと、「見たくないな」という気持ち、悪い言い方をしますと「どうでもいい」ではありませんが、「自分たちがいない戦いか…」という負の感情が芽生えながら見ていました。悔しくて。 だから、インタビューでパイレーツさんが「圧倒的に勝つ」と言って、「やっと成し遂げました」とシャーレをもらっている瞬間は、「おめでとう!すげー強かったわ」という気持ちと、悔しくて自分がどうにかなってしまいそうな。本当に有言実行されてしまいましたから。ファイナルを止められなかったし、その場にもいなかった。何なら、舞台にすら辿り着けていないので、「おおー、すごい試合だ」という麻雀ファンとしての楽しみ方と、虚しい気持ちがいっぱいになりながら見ていました。 ―日向選手も同じことを言っていた。「ファイナルの卓にいて、負けて優勝が決まるのと、その場にいないとでは、ものすごい差がある」と。 松本 全然、違いますね。4年連続3位から優勝しましたが、4年連続3位の時も、ファイナルのスタジオに行って、僕らはもうオーラスで優勝条件がある試合がなかった。それで、ずっと多井さんが出て、僕らは固唾を飲んでテレビを見ていた。「どっちが優勝だ!?」「伏せたら優勝」とか、サクラナイツの優勝とか。ドリブンズさんから始まった優勝をずっと見てきて、隣の部屋からどっかーんと声が聞こえますが、僕らはシーンとなって「荷物をまとめようか」と。 それもすごくきつかったんですよ。毎回、虚しくて。「頑張ったね」という時もあれば、「何でこんなことで終わっちまったな」みたいな虚無感よりも、酷い虚無感でした。だから、これは恵まれていたんだと思います。5年間、一度も味わわなかったというのは。ただ、味わわなかったからこそ、優勝した時も嬉しかった。ずっと3位で優勝を見送っていたのは僕らだけなので。スタジオの目の前で、生放送で(優勝を)かっさらわれたのも僕らだけだったし、5年間ずっとファイナルにいたのも僕らだけ。驕った発言かもしれませんが、そのギャップが一番激しかったのが、うちのチームだと思うので。そのギャップに耐えられませんでした。 ―もう嫌な思いをしたくないという気持ちがある中、もう1回、挑戦しなければならない。負の感情が突き動かすのか、どういう気持ちで新シーズンに向かおうとしているのか。 松本 ひとことで言い表すと「鬱憤を晴らす」みたいな意味合いが強いです。麻雀は勝ったり負けたりするゲームですので、当然、負けもある。その中で、負ける姿を見せることもプロフェッショナルの仕事だと思いますし、何なら「負けて哀愁を感じている姿を見るのが好き」というファンもいらっしゃいますが、見せるだけではなくて、一個人としての感情は、麻雀の負けで食らった負の感情は麻雀で勝つことでしか払拭できないと思っています。去年の分、これはレギュラーシーズンの分、これはセミファイナルの分、みたいな感じで、いくら勝っても足りないな、という感じで。 これは麻雀の感情として良いかは分かりませんが、僕は鬱憤を晴らすという感情で麻雀が左右されることはない。ただ単純に、去年の分を、借りを返すではありませんが、パイレーツさんをやっつけるのではなく、全部やっつけます。 ユニフォーム撮影の時、メッセージを書くところに「抱負」がありまして、毎回、「MVP」とか「優勝」と書きますが、「ちょっと痒いな」と思って「全部トップ」と書きました。全部トップを取れるわけはありませんが、本当に全部取るつもりでやりますし、そういう気合で挑みます。だから、負なのか陽なのか陰なのかは分かりませんが、「シーズン、早く来い。楽しみだな」という気持ちが強いので、陽だと思っています。 ―メンバーの話を聞くと、男性2人(多井隆晴・白鳥翔)は「今年は試合に(たくさん)出たい」と言っている。 松本 何なら、あの2人は遅い、そうなるのが。僕は選手だから。僕は麻雀が好きだから麻雀プロをやっているし、麻雀を愛しているし。僕は戦いが好きなので。「戦闘民族」「バトルジャンキー」と言ってくれますが、いい面子で戦う、いい試合をしたい。だから、僕はいい試合の中にいたいという気持ちがすごく強いです。 戦って勝ちたいのももちろんですが、戦いの場所にいたいんですよね。で、チームの中には僕しかいなかったんですよ、そういう感情を持っているのは。そういうタイプの人間が集まっていると思っているのに、外に出さない人が多い。少し例えは違うかもしれませんが、1人だけ甲子園を目指している高校球児、みたいな。「もうみんな、練習しようぜ」みたいな。だから、「2人が出たい」と言ったら「どうぞ、どうぞ」とは言わない。僕も出たいので。だから、「いや、次は俺が行く」「じゃあお前、次にラスを引いたら交代な」「お前、絶対に勝てよ」みたいな、そういう感じで行きたいので、嬉しいです。 でも、藍子ちゃんは「男子がそういう風に言っているんだったら、私は後ろで、しんどいと思った時にサポートに回る」というタイプなので、それは別に嫌だとは思わない。やる気はあったけど、あの2人は前回のギャップでそうなったんだと思います。チームメイトとしてはめちゃくちゃ嬉しいです。 ―1年目から一瞬、そういう時期もあったのか。それとも、初めてのことなのか。 松本 聞いたことないですね、2人が「出たいな」というのは。僕は「出たい」と言っていますが、志願したのは2回だけなんですよ。他は出たいのを分かってくれているから、そのマインドを藤田(晋)さんも塚本(泰隆)さんも支持してくれているんだと思います。成績も出ていたので。 それで、2回志願した時、両方ともトップを取ったんですよ。だから、2人からは1回もそういう話を聞いたことがなくて、何なら2人とも「出るなら出るよ」「ピンチだったら呼んで」みたい感じ。特に多井さんは。呼ばれて頼られるのが好きなタイプなので。2人はそれを叶えてくれていた。MVP争いでも「行っておいで」と言ってくれたし、温かく見守ってくれていました。 僕は「一番成績が勝っているやつを出そうぜ」みたいなものは、僕らに今までなかった感情だと思う。僕は密かにチーム内で一番勝ちたいと思っていますし、自分が引っ張っていきたい、頼られたいという気持ちがあります。 僕は「ライバルは誰か?」と書く時、必ず白鳥翔の名前を書くんです。ライバルは自分から言うのもおこがましいし、相手にそう思われるのもアレだし、全部「白鳥翔」と書いていますが、それは同じチームになっても思っています。「2人で切磋琢磨して、2人でめっちゃ無双しよう」と。優勝した時は嬉しかったですよ、めちゃくちゃ。2人でトップ取って、トップ取って、という感じだったので。だから、チームメイトの多井さんと白鳥には、今年は同じような感覚で「勝負しよう」「やろう」「いっぱい出ようね」という気持ちでいます。 ―メンバーが変わらないまでも、中身というか向き合い方というか、戦い方へのテンションはかなり違う。 松本 違うと思います。選手の雀風とかメンタルとかマインドは、その人の麻雀のヒストリーによって変わると思っています。ずっとMリーグで勝ってきた人は挫折を味わっていないからダメージが効くし、たぶん多井さんはMVPを取ってずっとやってきたが、今年は優勝を逃してファイナルも逃した。これは、かなり効くと思うんですよ。 僕は1年目、白鳥は2年目に大敗したんです。そこから僕らはガッと来たと思っているし、当然、チーム内でも「言いたいことを言えなかった」とか、「記録がかかっているから出たかった」とか、「麻雀がダメだった、下手だった時に言い合いたいけど言えなかった」とか、そういうことを1年間ごとにクリアしていって、優勝した時は最高の状態で挑んだんです。 当然、昨シーズンも最高の状態で挑みましたが、圧倒的な敗北というか、ファイナルに行けなかった敗北でした。僕は、麻雀は負けに慣れることも大事ですが、勝ちに慣れることも大事だと思う。だから、今年は負けた状態という最高の状態で挑む。酸いも甘いも知った状態で行くので、また強化された状態。麻雀の技術ももちろん、メンタルもかなりいい状況で挑めるのではないかな、と思っています。 ―昨年、監督が代わった。藤田監督と塚本監督の違いはあったか。 松本 塚本さんとはRTDリーグの頃から携わっていて、歳も近いですし、何なら白鳥よりも年下ですし、身近なんですよね。麻雀もプロだった経歴もありますし、麻雀の、個人のメンタル状況を、より藤田さんよりも近くで見ている。藤田さんは何もしないわけではなくて、選手に一任しているというか、選手の自主性を重んじたりとか、選手に余計なメンタル状況をかけたくないとか思うタイプで、それはすごく感じます。僕らのメンタルやマインドを感じてくれているな、と。 多井さんを立てつつ、多井さんに気持ち良く打ってほしい、選手に気持ち良く打ってほしい、と。ただ、「代わったから、こうなっちゃった」と僕は思わせたくなかった。塚本さんはすごく言われたと思う。あの人は明るく振る舞いますけど。たぶん選手4人が言うと思います。「代わったから負けたんじゃなくて、俺らが弱かったから負けたんだ」と。 負けると監督のせいにするファンの方もいますが、それは選手が最も嫌がる行為と言っても過言ではない。たしかに監督はメンタルケアとか管理も大事ですが、結局、プレーするのは選手。「塚本監督の采配のせいだ」なんて、もう絶対に言わせたくないので。藤田さんに味わわせたいという気持ちで5年やって優勝したので、今度は塚本さんの番だな、と思っているので、その戦いも始まります。任せてください。もう、「塚本監督のせいだ」なんて言わせないために戦います。 ◆Mリーグ 2018年に全7チームで発足し、2019-20シーズンから全8チーム、2023-24シーズンからは全9チームに。各チーム、男女混成の4人で構成されレギュラーシーズン各96試合(全216試合)を戦い、上位6チームがセミファイナルシリーズに進出。各チーム20試合(全30試合)を戦い、さらに上位4チームがファイナルシリーズ(16試合)に進み優勝を争う。優勝賞金は5000万円。 (ABEMA/麻雀チャンネルより)
ABEMA TIMES編集部