医療保険大手CEO銃殺事件 SNSで容疑者支持の声 アメリカの医療保険に対する市民の怒りも背景に?
ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみがパーソナリティを務めるinterfmのラジオ番組「NY Future Lab」(毎週水曜日18:40~18:55)。ジャーナリストでZ世代専門家のシェリーめぐみが、ニューヨークZ世代の若者たちと一緒に、日本も含め激動する世界をみんなで見つめ、話し合います。社会、文化、政治、トレンド、そしてダイバーシティからキャンセルカルチャーまで、気になるトピック満載でお届けします。 12月11日(水)のテーマは「なぜ狙撃犯はヒーローになったのか? NYの大企業トップ暗殺でアメリカ人の怒りが爆発」。アメリカ最大手の医療保険会社「ユナイテッド・ヘルスケア」のCEO銃撃事件について、「NY Future Lab」に所属するアメリカZ世代が意見交換しました。
◆銃弾に込められたのは“医療保険会社への怒り”か?
12月4日、ニューヨーク・マンハッタンのミッドタウンにあるヒルトンホテル前の路上で、アメリカ最大手の医療保険会社ユナイテッド・ヘルスケアのCEOブライアン・トンプソンさんが銃撃に遭い死亡しました。銃社会のアメリカといえど、マンハッタンの中心部での銃撃は珍しく、さらには明確に彼を狙った犯行として世間に大きな衝撃を与えています。 犯人は9日にペンシルベニア州で拘束されましたが、放送日時点では逃走中の身でした。動機も判明しないなか、銃撃事件で明るみになったのは、アメリカの医療保険に対する市民の怒りの感情でした。まずは、ニューヨークのZ世代で構成されたラボメンバーが、事件をどう受け止めたのか聞いてみましょう。 ノエ:いやあ、クレイジーだったね。あんなニューヨークのど真ん中で暗殺されるなんて。 メアリー:6番街と55丁目の角あたり。実は、私の職場から角を曲がってすぐのところだったんだ。 ミクア:ビデオを観たけど、絶対プロの仕事だと思った。 ノエ:サイレンサーとかも使っていたしね。 ミクア:警察は絶対に犯人を見つけられないと思うよ。 ノエ:弾丸の薬莢(やっきょう)には“deny,defend,depose”(否認、弁護、追放)というメッセージが書かれてあったんだよね。 メアリー:はっきり覚えてはいないけど、アメリカの健康保険制度に関する本からの引用だったみたい。保険会社があなたからお金を奪うみたいな、そういう内容。要するに、反保険会社的な内容だった。 ノエ:おそらく保険会社は、見えないところで酷いことをたくさんやっているんだろうな。そういう疑惑を否定して、自分たちを守っている。それを容疑者は伝えたかったんじゃないかな。 興味深いことがある。最初にニュースで見たときは、今までの詳細を報道しているだけだった。犯人は見つかっていないとか、銃弾のケースにはこう書かれていたとかね。つまり、報道は彼を“冷酷な暗殺者”のように描こうとしていたんだよ。 ところが、SNSではミームで溢れかえっていた。一般人の目から見ると、まるで彼が英雄か何かのように、自分たちの代表者みたいに称えているんだ。 ノエが指摘したメッセージについてですが、現場で発見された9mm口径の薬莢には、「deny(否認)」「defend(弁護)」「depose(追放)」と刻まれていました。これは、保険業界の支払い拒否を非難する「delay(遅延)」「deny(否認)」「defend(防御)」というフレーズに極めて似ています。 銃弾の薬莢に医療保険会社の不正を訴えるようなメッセージが書かれていたことで、アメリカ人が一斉に反応し、この暗殺者が悪者を成敗した英雄のように見られているのです。 その背景には、アメリカの保険制度の厳しい現実があります。日本や他の多くの先進国が、国民皆保険制度なのに対し、アメリカでは医療保険に加入するかどうかは、あくまで個人の自由です。アメリカは医療費自体が日本に比べて数倍高いため、国民は民間の保険に高い保険料を払って加入しなければなりません。月平均は1人10万円と言われています。 また、受けられるサービスは保険の種類や保険料により大きく異なります「支払いを拒否されることも珍しくなく、高額の手術が受けられないこともあります。そのため、がん患者などが多額の借金を背負うことになり、無事に退院できても自己破産するケースもあります。実にアメリカ人の自己破産の7割近くが、医療費が原因という数字があるほどです」と、Z世代専門家のシェリーはアメリカの保険制度の現状を説明しました。