2024年に登録されたヨーロッパの世界遺産全7件、イタリアのアッピア街道ほか
4. ローマ帝国の国境線、ダキア、ルーマニア
ダキアとはローマ帝国の属州で、現在のルーマニアにあたる地域。ローマ帝国は全土に国境防砦(ぼうさい)システム「リメス」を張り巡らしたが、西暦106年~271年に使われていた「ダキア・リメス」はヨーロッパに築かれたリメスのなかで最も長く、複雑なものだ。 ダキアはローマ帝国の大陸の属州としては唯一、全域がドナウ川の北にあった。ルーマニアの16の郡にまたがり、地形もさまざまだ。一連の防壁や砦、崩れかけた石造りの物見やぐらなどが今も残り、かつてのダキアの戦略的な重要性を今に伝えている。
5. フローカントリー、英スコットランド
英スコットランド、ハイランド地方のケイスネス郡からサザーランド郡には「フローカントリー」と呼ばれる手つかずの広大な泥炭地(ブランケット湿原)が広がっている。約20万ヘクタールに及ぶ地域には深い泥炭地のほか、沼地、古代植物の化石などがあり、世界で最大規模の炭素貯蔵庫でもある。気候変動への対策が急がれる今、大切な役割を果たしている。 車や列車でもすばらしい景観を堪能できるが、歩いて旅すれば水路でつながった沼地や多種多様な野生生物を間近に観察できるだろう。
6. ビエトレニツァ洞窟、ボスニア・ヘルツェゴビナ
ディナル・アルプス山脈の南側にあるビエトレニツァ洞窟は地下水生生物の生物多様性のホットスポットだ。洞窟内を巡る600メートルの見学用通路からは、多くの水生生物のすみかとなっている水路、湖、水流、岩の裂け目などを観察できる。 「ビエトレニツァ」とは「風の洞窟」という意味。洞窟の入り口で見学者を迎える冷たい風に由来しているが、この風のおかげで洞窟内の温度が一定に保たれている。
7. モラビア教会の入植地群、ドイツ・英国
モラビア教会とはルター派教会の一つ。2015年にデンマークのクリスチャンフェルドがモラビア教会の入植地として世界遺産に登録されているが、今回、米国のベスレヘム、ドイツのヘルンフート、英国のグレースヒルが加わり、1つの世界遺産として登録された。 英北アイルランドの村、グレースヒルはモラビア教会によって1759年に築かれた入植地。同教会の建築物などをガイド付きツアーで見学できる。モラビア教会の再出発の地であるドイツのヘルンフートでは、博物館や教会のホールでモラビア教会の伝統を知ることができる。 *この記事は『ナショナル ジオグラフィック トラベラー(UK)』により制作されました。
文=Hannah Wild/訳=三好由美子