アクワイアらしさが加わった『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』。いちばん苦労したのはルイージの3Dモデル。守った“らしさ”と見直した“当たり前”を開発者に訊く!
2024年11月7日(木)に『マリオ&ルイージRPG』シリーズの完全新作タイトル、『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』が発売された。 【記事の画像(23枚)を見る】 本作は、完全新作としては約9年ぶりで、初のNintendo Switch作品でもあるのだが、何よりファンを驚かせたのは、開発を担当したのがアクワイアということだろう。 今年で創立30周年を迎える同社は、『天誅』や『侍道』、『勇者のくせになまいきだ。』、『AKIBA'S TRIP』といった、“尖ったタイトル”を開発することで知られるゲームメーカー。近年では、スクウェア・エニックスの『オクトパストラベラー』シリーズの開発なども手掛けており、デベロッパーとしての存在感もますます増している。 とはいえ、プレイステーションハードの印象が強く、任天堂とタッグを組んだことに驚いた方も多いだろう。本稿では、『マリオ&ルイージRPG ブラザーシップ!』を手掛けた任天堂とアクワイアの主要スタッフにインタビューを実施。両社が組むことになった経緯や、アクワイアらしさを取り入れることで、さらなる進化を遂げたゲームの開発秘話などをうかがった。 大谷 明(おおたに あきら): 任天堂 プロデューサー。任天堂側のプロデューサーとして全体を統括。 大橋晴行(おおはし はるゆき): アクワイア ゲームデザインセクション・セクションマネージャー。ディレクターとして企画の立案と開発を統括。 雲野雅広(くもの まさひろ): アクワイア プロデュースセクション・プロデューサー。アクワイア側で開発のプロデューサーを担当。 古田仁美(ふるた ひとみ): アクワイア アートディレクター。アートスタイル全体の総括や品質管理などを担当。 『マリオ&ルイージRPG』の最新作で任天堂とアクワイアのタッグが実現 ――まずは今回、皆さんが担当されたパートを教えてください。 大谷: 『マリオ&ルイージRPG』シリーズは、2作目(※『マリオ&ルイージRPG2』)から開発に参加していまして、3作目(※『マリオ&ルイージRPG3!!!』)からプロデューサーをしています。本作もプロデューサーという立場で、全体の統括をしておりました。 雲野: アクワイア側で開発のプロデューサーを担当しました。じつは、大谷さんとはセガ時代の同僚で、『サクラ大戦3 ~巴里は燃えているか~』をいっしょに作っていたんですよ(笑)。席も隣のブースで、自分はムービーパート、大谷さんはミニゲームパートを担当していて。 大谷: 当時、僕はプランナーでしたね。 雲野: 今回ごいっしょできて不思議な巡り合わせに驚いています。本作では、これまでにアクションゲームのプロデューサーを担当していた経験から、全体管理を行いつつ、アイデアも出させていただいて、任天堂さんと協力しながら作り上げてきたという感じです。 大橋: 今回はディレクターとして、企画の立案と開発の統括を担当させていただきました。 古田: 本作ではアートディレクターとして、アートスタイル全体の総括や品質管理と、コネッタなどの一部のメインキャラクターのデザインを担当させていただきました。 ――シリーズ完全新作としては、約9年振りとなります。ひさびさに新作を開発することになった経緯をお聞かせください。 大谷: シリーズ5作目の『マリオ&ルイージRPG ペーパーマリオMIX』の後に、リメイクを2作(※『マリオ&ルイージRPG1 DX』と『マリオ&ルイージRPG3 DX』)を開発してから最新作を考える段階に入りましたが、つぎはNintendo Switchで作ることは決まっていました。 ですが、『マリオ&ルイージRPG』シリーズは、ほかのマリオのゲームと比べると、パッケージなどのアートワークとゲーム画面が一致しにくいのもあり、お客様の認知度がまだまだ低いという課題があると考えていて。ハードをNintendo Switchに移行するタイミングで、新しいお客様にも注目してもらえるように、3Dで表現しようというところから開発がスタートしています。 ――ハードがニンテンドー3DS からNintendo Switchに切り換わったこともあって、3Dにすることは最初から決まっていたのですね。 大谷: ただ、最初は3Dでの開発が思うように進まなくて。本作の開発が難航していたときに開発会社を探すことになり、アクワイアの大橋さんとお話する機会がありました。アクワイアさんは、 『天誅』や『侍道』といったアクションゲームを手掛けられていますし、近年では『オクトパストラベラー』というRPGの開発も担当されています。アクションとRPGの開発経験があったので、『マリオ&ルイージRPG』の最新作をいっしょに作りませんかとお声がけしました。 ――任天堂さんから声がかかったときの率直な感想は? 大橋: ビックリしましたよ。なんでアクワイアって(笑)。 一同 (笑)。 大橋: アクワイアは、ほかのプラットフォームを中心にゲーム開発を行ってきたので、どこでうちのことを知ったんだろうと思いました。ビックリはしましたがうれしかったですね。アクワイアとしては、世界中の人々に愛されている任天堂流のコンテンツの作りかたを学べるチャンスだっていう期待もあって、お受けすることを決めたんです。 ――雲野さんと古田さんの感想もお聞きしたいです。 雲野: 任天堂さんといっしょにマリオのゲームを開発することによって、開発が終わったときに、これまでとは異なる視点を得られるのではないかと思いました。その視点を見てみたいという気持ちが強かったので、アクワイアに任せていただけるのなら、ありがたいなという気持ちでした。 古田: びっくり仰天ですよね(笑)。うちで任天堂さんのマリオのゲームを開発できるなんて。正直、不安な気持ちもありましたが、マリオは子どものころからずっと楽しく遊ばせていただいた、自分にとっても大切なIP(※知的財産)です。お受けするからには、少しでも恩返しができるようにがんばろうと、覚悟を決めました。 大橋: 我々はマリオというIPに小さいころから親しんできたので、開発に携われるのであれば、マリオのゲームで味わった感動を、今度は僕たちが伝えていきたいという思いはありました。 ――プレッシャーよりも、恩返しをしたいという気持ちのほうが強かったと。 大橋: 一抹の不安はありましたよ。僕はいろいろとチャレンジしたくなる気質なので、任天堂さんと合うのかなって。でも、アクワイアにはマリオシリーズが大好きなスタッフが何人もいるので、いざというときもなんとかなるだろうと気持ちを切り換えて臨みましたが、あとでたくさん苦労しました(苦笑)。 雲野: 大橋は、アクワイアらしく尖った作品を作りたいという考えが強いんですよ。ただ、本作は 『マリオ&ルイージRPG』シリーズの最新作ということで、シリーズモノを尖らせようとしたときに、いろいろとせめぎ合いがあって、苦労が多かったのかなと思います。 ――どのような苦労があったのかお聞きしたいのですが、大きなところでいうと、3Dでの開発がうまく進まなかったところでしょうか? 大谷: そうですね。任天堂としてはアルファドリームさん( ※『マリオ&ルイージRPG』シリーズを手掛けていた開発会社)から引き継いで、シリーズ最新作を作るたいへんさはあるだろうなと感じていました。 古田: はい。最初は理解不足で見事につまずきまして……。3Dの方向性を決めるにあたって、任天堂さんからは 『マリオ&ルイージRPG』のいいところを3D表現に落とし込みたいとお話をいただきました。ですが、そのうえで尖った新しさを出そうとしてしまって……。 大橋: ワイルドで、すれたような感じの。 古田: 荒々しい大自然を舞台に野生的な冒険をしようということで、ニヒルな表情をさせたり、ボロボロのマントを着せたり。大橋と意欲的にデザインを進めていたのですが、一方で、プレイヤーとしての自分は「これをマリオだと受け入れられるだろうか?」という葛藤もあって。その気持ちが次第に強くなっていったので、大橋にワイルドなマリオのデザインの最終版を提出しながら、これまでの 『マリオ&ルイージRPG』であり、誰が見てもマリオだとわかるような方向性のデザインも描かせてくれ、と長文メールを送ったんですよ(苦笑)。覚えていますか? 大橋: もちろん覚えているよ。ちょっとひより始めたなって(笑)。 一同 (笑)。 ――ワイルドなデザインのマリオを見たときの、任天堂さんの率直な感想は? 大谷: 正直に言うと、斜め上のデザインが上がってきたなと思いましたね(苦笑)。たしかに、新しい3Dの 『マリオ&ルイージRPG』を作ってもらう中で、“アクワイアさんらしさ”を求めてはいました。なので、先ほど古田さんがお話しされたような、最低限の方向性しかお伝えしなかったんです。いろいろ要望をお伝えすると、アクワイアさんらしさが弱くなるかもしれないと思い、どんなデザインが上がってくるのか、まずはお任せしてみようと考えました。 古田: 任天堂さんからは、ワイルドなマリオは違いますとハッキリと言われました。 大橋: 任天堂さんとディスカッションをして、なぜマリオシリーズが長く続いているのか、世界中のファンに愛されているのかを、より深く理解することができました。マリオのゲームは、こうやって作っていくんだということもわかったので、ものすごく勉強になりましたね。 古田: 改めてデザインの方向性も確認し、そこからは過去作のパッケージやドット絵、アニメーションの魅力を抽出した新たなデザインを考えました。具体的に言うと、本作はアウトラインのついたモデルで表現していて、マリオやルイージが動いたときに、マンガの描線のようなエフェクトがつくようになっています。 ――初期のデザインのやり取りで、ほかに印象に残っていることはありますか? 大谷: 古田さんが描いてくれたデザインの資料には、ワイルドなマリオに対する葛藤がつぶやきのような形でたくさん書いてありましたよね。 大橋: 古田の心の声が全部入っていました。 大谷: それを見て、すごく苦労しているんだなと思いました(苦笑)。 古田: 素直に書きすぎたかもしれません(苦笑)。任天堂さんとは初めてお仕事をしますし、手探り状態でスタートしていたので、どうしてこのデザインにしたのかなどは、資料に書いたメモを通してなるべく率直にお伝えしようと思いました。 これは任天堂さんだけではなく、社内のデザインチームに対しても、です。アートディレクターとしての思考や判断基準、迷いもできるだけオープンにすることで、意思疎通しやすくなるだろうと考えて、意図的にメモを残していました。 ――デザインの方向性が決まってから、3Dの制作はスムーズに進んだのですか? 雲野: じつは、そこから先も苦労が続きましたね(苦笑)。過去作のイラストやドット絵をもとに3Dを作ってはみたものの、ゲームにするとテンポや間の取りかた、手触りが 『マリオ&ルイージRPG』っぽくなくて、調整するのがたいへんでした。 なによりも難しかったのが、ルイージです。過去作のイラストやドット絵を参考に、3Dのルイージにかわいいポーズを取らせてみたところ、大谷さんにあざとく見えると指摘されてしまい。再現度は高いはずなのに、3Dにするとあざとく見えるのはなんでだろうと、アニメーションチームと頭を抱えましたね。辞書で“あざとい”という言葉の意味を調べたりもして(苦笑)。 ――ルイージがなぜあざとく見えるのか、言葉で説明するのは難しいと思います。: 大谷: きちんと説明するために、我々もアクワイアさんが作られたルイージがあざとく見えてしまう理由を分析しました。 雲野: アイドルの写真で説明してくれましたよね。この写真はあざとく見えますよねって。 大谷: そうでしたね(笑)。 古田: 任天堂さんからのご指摘を受けて、アニメーションチームはキャラクターへの理解をさらに深めてくれました。 『マリオ&ルイージRPG』シリーズのルイージは、愛されキャラで、一生懸命やっているんだけど、たまに調子にのり過ぎて失敗しちゃう。そういった要素を抽出することで、あざとさが感じられない、自然な動きのルイージを表現できたと思います。 シリーズで初めて、ストーリーにルート分岐を採用 ――デザインで見当違いを体験してしまうと、萎縮してつぎの尖った提案をしづらいのかなと思いますが、実際はいかがでしたか? 大橋: そんなことはありません。そもそも、デザインは古田の担当ですから。僕は「古田がんばれ」と思っただけで(笑)。 一同 (笑)。 大橋: あのころ、僕は少し自信があったんです。というのも、企画立案がわりとスムーズに通ったんですよ。 雲野: そうでしたね。 大谷: 大橋さんから、マリオたちは船島で大海原を冒険して、漂流している島々をくっつけるというアイデアが出たのも、アクワイアさんにお願いしたいと思った理由でした。というのも、このアイデアは任天堂からは出てこなかったと思います。我々も企画を検討していましたが、 『マリオ&ルイージRPG』の新しい遊びかたやアクションをベースに考えていたんです。 でも大橋さんが提案された企画なら、プレイヤーが冒険する島の順番を選ぶことができる。これまで一本道だった『マリオ&ルイージRPG』のストーリーに、分岐の要素を入れられるというのは、目から鱗が落ちましたね。 大橋: それもあって、僕は一仕事終わったつもりでした(笑)。 ――ストーリーやキャラクターも、大橋さんが考えたのですか? 大谷: 開発初期の段階で、任天堂もいっしょになってみんなで考えました。とくに舞台に関しては、世界を分断させることが決まっていたので、キノコ王国ではできないなと(笑)。 ――たしかに(笑)。 大谷: それならいっそのこと、マリオたちを異世界に飛ばしたほうが、ストーリーや設定をいろいろ自由に考えられると思い、コネクタルランドという新しい世界を生み出しました。 ――コネクタルランドの住人たちは、どのようにデザインを考えたのでしょうか? 大谷: コネクタルランドは、コードやプラグがモチーフになっています。住民たちのデザインにも、コードやプラグを取り入れていますが、じつは最初のモチーフは虹だったんです。本作はバラバラになった島々をつなぐストーリーになっていて、コンセプトも“兄弟やキャラクターの絆”に決まりました。 意見を出し合う中で、バラバラになった島を虹でつなぐというアイデアが出たのですが、虹の橋でつなげるのは表現するのが難しいということになって。打ち合わせを行っていた会議室には、コンセントやコードがたくさんあったので、虹の代わりにコンセントでつなげることを思いつきました。コンセントやプラグの差込口は、いろいろな種類があって、顔のように見えるのも、キャラクターデザインに取り入れやすいなと。 古田: ただ、コンセントやプラグは人工的で無機質な印象を与えがちなモチーフでもあります。親しみが感じられるように、コネッタはプラグを帽子に見立てていたり、コネッタの親友のタップーは、鼻に見えるところが目になっていて、ブタの貯金箱にも見えるようなヘンテコさを出したり。 ほかの住人たちも、コンセントの顔やコードを髪型にして統一しています。ちなみに、コンセントって本来は左右で穴の大きさが違うのですが、顔が歪んで見えてしまわないように揃えています。 ――ストーリーに分岐の要素を取り入れた理由を教えてください。: 大橋: プレイヤーに重要な決断をしてもらうことで、ストーリーに重みを出したいと思いました。冒険というのは決断の連続で、決断のすえに大きなことを成し遂げるからこそ、達成感が味わえると僕は考えています。 『マリオ&ルイージRPG』シリーズでは、ルート分岐を採用したことがなかったので、本作でチャレンジしてみたかったんです。 大谷: これまでは一本道のRPGだったので、ファンの方たちにも新鮮な気持ちで楽しんでいただけると思いましたが、マルチエンディングにはしたくなくて。マルチエンディングにすると、望んだエンディングを見られなかったときに損をした気持ちになる方もいるじゃないですか。 大橋: それで選択肢によってエンディングは変わらないけど、結末にいたるまでの展開を変えることにしました。どちらか一方を選ぶと、ほかが選べなくなっています。 大谷: どれを選ぶのか、たくさん悩んでほしかったので、この形式を採用しています。ストーリーの後半には、とくに悩ましい選択肢もありますよ。 大橋: ふたつ目の選択肢も悩むと思いますけどね。 ――敵地に潜入させるキャラクターを選ぶ選択肢ですか? 大橋: そうです。 雲野: 選んだキャラクターによっては、展開が変わりますからね。 ――たしかに。僕はとあるキャラクターのほうが、ふだんのイメージにも合っていて適任だと思ったので、そちらを選びました。 大谷: 攻略がたいへんになるかもしれませんが、私は別のキャラクターを選んだときの展開がおもしろくて好きでしたね。 大橋: こんなふうに盛り上がれるのも、ルート分岐がある作品の魅力だと思います。 フィールドのアクションを遊びやすくしたうえでルイージの新たな見せ場を用意 ――フィールドの探索で、新たにチャレンジしたことは? 大谷: マリオがジャンプして段差などを飛び越えると、ルイージも自動でジャンプして、後を追ってくるようにしたことです。これまでのシリーズでは、マリオはAボタン、ルイージをBボタンでジャンプさせて、プレイヤーがふたりを操作する必要がありました。失敗すると最初の地点からやり直しになり、頻繁に操作が必要だとアクションが苦手な方は冒険が進めづらいこともあるため、今作では必要なときだけプレイヤーが操作するようにしています。 しかし私は、本作でもこれまでの操作方法を踏襲するつもりでしたが、大橋さんから変えましょうと強く言われて。 大橋: 過去作をプレイしたときに、ふたりを同時に操作するのは、いっしょに冒険している雰囲気を強く感じられる一方で、操作がたいへんだと感じました。そこで、ルイージは基本的に操作しなくてもいいようにしていますが、ルイージの活躍の機会を担保するために、ルイージセンスという新たな見せ場を用意しています。 ――アイテムの収集でも活躍してくれるルイージセンスは、とても便利だと思いました。ストーリーでルイージセンスが必要になる場面では、どんな方法で問題を解決してくれるのか、ルイージのユニークなひらめきが見られるのも楽しかったです。 雲野: 本作でルイージセンスが使える理由もちゃんと明かされるので、お楽しみに。 ――ルイージファンは注目ですね。シリーズおなじみの操作を変更することに、大谷さんに迷いはありませんでしたか? 大谷: アクワイアさんがルイージセンスという新たな遊びを提案してくれましたし、マリオとルイージが別々に行動することで突破できる仕掛けも考えてくれたので、本作でもマリオとルイージの協力関係はちゃんと表現できていると手応えを感じています。社内でテストプレイを実施したときも、シリーズを遊んだことがない人や、ひさしぶりに遊ぶという人の多くは、好意的に受け止めてくれているようでした。 ――大橋さんが新しいアイデアを提案するうえで、気をつけていることは?: 大橋: シリーズファンの方がプレイしたときに、これは 『マリオ&ルイージRPG』ではないと思われないように、最低限のラインは守るようにしています。そのうえで、これまで体験したことのないような、斬新な遊びを提供できたらいいなと思い、システムやデザイン、演出などを考えました。 ――フィールド探索では、ブラザーアクションも特徴的でした。アイデアは、アクワイアさんから提案したのでしょうか? 古田: ブラザーアクションのアイデアは、社内で部門問わず、広く募集してから任天堂さんに提案しましたよね。 大谷: アクワイアさんからいただいたアイデアをベースに、UFOスピン、ブラザーボール、ファイア&アイスの3種類のブラザーアクションが誕生しました。本作ではブラザーアクションをRスティックで瞬時に切り換えて使えるので、遊びやすくなっていると思います。 また、アクションゲームのマリオに慣れている方は、『マリオ&ルイージRPG』の移動速度だと遅く感じるかもしれません。ブラザーボールは、フィールドを素早く移動できる手段として実装したという経緯もあります。 ――ブラザーアクションのUFOスピンを使うときに、マリオとルイージが社交ダンスを踊るような姿になるのもおもしろいなと思いました。: 大谷: あの状態になると、マリオとルイージがいっしょに行動するようになるので、バラバラのときよりも障害物を回避しやすいといった特徴もあるんです。ちょっとした発見があるように作っていますので、自分なりの進みかたを探してもらえるとうれしいですね。 ――ちょっとした発見と言えば、ルイージセンスが発生して、ルイージがひらめいたときのパターンが多くて驚きました。: 大谷: 私も種類が多いなと思いました(笑)。任天堂側からお願いしたわけではなくて、アクワイアさんが自主的に種類を増やしてくれました。 大橋: ルイージセンスの絵コンテは僕が描きましたが、毎回この演出だと、つまらないよなと思って。僕の絵コンテをベースに、10種類ぐらい作ってくださいとオーダーしました。 雲野: それでネタを考えるところから始めて。いろいろなパターンを考えましたが、任天堂さんの監修でNGになったものもありましたね。これはちょっとって(苦笑)。 ――ルイージセンスの演出でも攻めすぎたんですね。 大谷: 芸が細かいなと感心したのは、“!”が“L”になっているところです。最初は見逃していましたが、ファンの方たちが話題にされていて私も気づきました。 大橋: じつは、僕も気づかなかった(笑)。 一同 (笑)。 古田: “!”の“L”にしたのは、担当者の思いつきでした。多くの方に喜んでもらえたので、やってよかったです。 大谷: タイトルロゴの“ブラザーシップ!”のデザインにも採用しました。 ――ほかに見逃しやすいけど、こだわっているポイントがあれば教えてください。: 大谷: 印象に残っているのは、古田さんがフィールドのあちこちに配置した小動物です。マリオの世界にいるのは違和感があるので、消してほしいとお願いしたのですが、古田さんは『スーパーマリオ オデッセイ』にも登場しますよって(苦笑)。 古田: こういう環境の島だったら、こういう生き物がいてもいいんじゃないかと提案しました。 大谷: コネクタルランドは異世界ですし、 『スーパーマリオ オデッセイ』で登場しているならいいかなと。私からは、雪と氷におおわれたツルンベール島に、除雪用具の“スノーダンプ”を配置してほしいと伝えました。私は雪国育ちなので、雪かきに使うスノーダンプはおもしろいかなと半分冗談で……(笑)。 古田: 私はスノーダンプを知らなかったので、ゲームに登場させて大丈夫なのか、ちょっと心配でした。社内でも確認しつつ、大谷さんのお願いだから大丈夫だよねって(苦笑)。 ――たしかに、不安になりますね……。 大谷: あとは、大海原で発見できる岩礁にも小ネタがあります。当初は、過去作で活躍したキャラクターを登場させるというアイデアもあったのですが、本作はオリジナルキャラクターがたくさん出てくる群像劇でもあります。過去作のキャラクターまで登場させるのは難しいと思い、イエロースター(※ 『マリオ&ルイージRPG3!!!』にて初登場。この作品以降にも登場している)だけを出すことにしました。その代わりに、過去作のキャラクターを模した岩礁を用意しています。 ――そもそも岩礁は、どういった経緯で誕生したのでしょうか?: 大谷: ストーリーを進めて島をつないでいくと、大海原を漂流する楽しみがどんどん少なくなってしまいます。漂流島のほかに、新たな発見を楽しめる要素がほしくてアクワイアさんに考えていただきました。 大橋: それで、いろいろな形の岩礁を配置することにしたんです。 雲野: 大橋から20種類ぐらいほしいと言われて、みんなでいろいろな岩礁を考えました。 古田: 見つけた岩礁を船島に置けるようにしたいから、どうにかしてほしいっていうんですよ。当時は、シナリオやイベントがかなり決まっていて、船島に配置するモノもほぼ決まっていました。スペースがないけど、どうしようって(苦笑)。 雲野: イワガールというキャラクターが出てきて、彫刻を掘るからと。 大橋: 置いてもらう前提でお願いをしていましたね。何個ぐらい置けそうって。 大谷: 船島に岩礁の彫刻を置くと聞いたときは驚きました。スペースあるのって(笑)。 古田: スペースに余裕はなかったのですが、アイデアはおもしろかったので、実装できればプレイヤーの方によろこんでいただけるという確信はありました。やるしかないと腹をくくって、フィールド班と試行錯誤をしながら場所を捻出してもらいましたね。 ――岩礁の彫刻にそんな苦労があったとは……。 大谷: イワガールもわざわざ作ってくれたんです。イワガールは汎用キャラでいいですよとお伝えしたのですが、いつの間にか特別なキャラクターとして誕生していました。 ――妥協はしたくなかったと。 古田: イワガールは、岩礁を発見したプレイヤーが話しかけるキャラクターなので、ちゃんと見分けがつくように、差別化は必要だと思いました。デザインを考えるなら、いいものにしたいですよね。イワガールというダジャレの名前(※岩礁を発見した=“いわがある”とかけている)や、岩で芸術品を作るグラングラン島の設定ができていたので、おそらく彼女も島の住人であると。それならハンマーを持たせるべきだよねと、いろいろアイデアを出し合って説得力のあるデザインを考えています。 これまでの当たり前を見直して、遊びやすさと迫力がアップ ――バトルで新たにチャレンジしたことはありますか? 大谷: 私にとってチャレンジだったのは、何度も反撃が狙えるようにしたところと、敵のHPバーを表示させたところです。これまでの 『マリオ&ルイージRPG』では、敵の攻撃をカウンターするチャンスは一度しかありませんでした。ミスをしたら終わりだったところを、本作ではミスをしても、敵から攻撃を受けるまでは何度でも反撃を狙えます。 ――フェイントを仕掛けてくる敵が多いので、反撃がやり直せて助かりました。反撃の仕様を変更したのは、大橋さんのアイデアですか?: 大橋: いえ、バトル班から上がってきました。僕自身も 『マリオ&ルイージRPG』のバトルは、タイミングがシビアなところがあり、難しいという印象があって。小さいお子さんから大人まで楽しめるバランスにするには、どうすればいいのかをいろいろ検討した結果、何度でも反撃が狙えるように仕様を見直しました。 大谷: ただ、私はHPバーを表示するのは、最後まで反対だったんです。 『マリオ&ルイージRPG』のバトルは、敵のHPバーをあえて表示しないことで、いつ倒せるんだろうかという緊張感が味わえるように設計していました。本作でも踏襲したかったのですが、この場にいるメンバーは、私以外、HPバーを“表示したい派”だったので(苦笑)。大橋さんたちと話し合いをして、熟考のすえに変更しています。 ――派閥争いが起こっていたのですね(笑)。 大橋: HPバーを表示することで、緊張感は薄れてしまうかもしれません。でも、敵のHPがわかれば、どのように倒せばより効率的に戦えるのか、戦術を立てやすくなります。 雲野: 本作には新要素のバトルプラグも登場しますからね。バトルプラグは使用回数が決まっていますが、HPバーを表示することで、使いどころを考えやすくなるという利点もあります。 ――敵のHPバーを表示することにしたのは、最終的に大谷さんも納得できたから? 大谷: そうですね。 『マリオ&ルイージRPG』にアクワイアさんらしさを取り入れるにあたって、変えてはダメなところ、変えてもいいところの線引きは慎重に判断しました。HPバーに関しても、最初はバトルの緊張感が失われてしまうからと反対でしたが、大橋さんたちと話し合いをして、熟考のすえに変更しています。 私は長年シリーズの開発に携わっているので、当たり前を見直すのが難しい。でも、アクワイアさんが開発に加わり、当たり前をうまく崩してくれたことで、『マリオ&ルイージRPG』の新たな魅力につながったと思います。 ――新要素のバトルプラグも新たな魅力だと思いますが、どのような経緯で誕生したのでしょうか? 大橋: コンセントやプラグをモチーフにすることが決まり、バトル班から戦闘でも使いたいと提案されました。 大谷: 当初のアイデアでは、過去作に登場するバッジやカードのように、副次的なシステムでした。もっとちゃんと使えたほうがおもしろいよねということで、複数のプラグを組み合わせて特殊な効果を発揮できるようになりました。 大橋: 組み合わせは、トッピングのイメージでしたね。この敵にはこの効果を乗っけよう、状況が変わったから今度はこの効果にしよう、といったことができたらおもしろいなと思って提案しました。 雲野: 実装できてよかったと思いますが、開発の終盤に仕様を変更したいと言われたので、現場は大混乱でしたよ(苦笑)。バトルプラグの効果は、発動する敵としない敵がありましたし、組み合わせたときに正しく発動するかどうかの確認も必要です。仕様を変更した結果、チェック工数が何倍にもふくれ上がり、スケジュールや予算を調整するのに苦労しましたね。 ――バトルプラグは、使用回数が決まっていて、バトル内で付け換えできるのもいいと思いました。 大谷: プラグの付け換えを考える時間は増えてしまいますが、プラグをコマンドブロックにしてメインの役割にすることで、バトル中に状況に応じて付け換えができるようにしました。 また、使用回数を設定することでいろいろなプラグを試してもらえるようになりましたね。バトルのジャンプやハンマー、ブラザーアタックが自動的に“EXCELLENT”になる“かってにエクセレント”など、アクションの難度を下げてくれるプラグも作れるので便利ですよ。 古田: “かってにエクセレント”は最高ですね! 雲野: いろいろな効果のバトルプラグを用意していますので、プレイスタイルに応じて使いわけてもらえるとうれしいですね。 ――ボス戦では、ルイージセンスによる特殊な攻撃にもお世話になりました。 大橋: ルイージセンスは、フィールドの仕掛けを解くために考えたものでしたが、バトルでもルイージの見せ場を作りたいと考えて取り入れました。本当は、すべての敵に対して、ルイージセンスによる特殊な攻撃を用意したかったのですが、敵の数が多くて現実的ではなかったので、ボス戦にのみ実装しています。もともとボス戦は、バトルが進むと場所が変化するというアイデアがあったので、このアイデアとルイージセンスを組み合わせることで、ボス戦がますます魅力的になったと思います。 ――シリーズおなじみのブラザーアタックも、3Dになったことで演出面が強化されていて好印象でした。マリオとルイージが、めちゃくちゃ動くぞって。: 雲野: ブラザーアタックは、収録されているバリエーションを決めるまで、かなり時間がかかりました。 大谷: アルファドリームさんでバトルを担当されていたプランナーの方に助っ人で入っていただいてからは、決まるのが早かったですよね。どのような演出にするかは、古田さんがたいへんだったと思いますが。 古田: 本作では、3Dで空間をフルに使えるようになったので、カメラワークでかっこよくみせることができれば、作品の大きな武器になると考えました。シリーズおなじみのブラザーアタックも、シメの演出の決めどころを変えることで喜んでもらえたかなと手応えを感じています。ブラザーアタックは、企画のスタッフから上がってきたアイデアや見せかたを、モーションの担当者とカメラワークや動きを実現できるかどうか話し合い、どんどんブラッシュアップさせていきました。 雲野: ブラザーアタックのアイデアは、アニメーション班からも出てきましたね。おもしろい絵コンテも多くて、宇宙に行くという突拍子もないアイデアもあって、よく考えつくなって。やりすぎちゃうと、3Dモデルの形状が崩れてしまう心配もありましたが、アニメーション版のリーダーが崩れはなんとかするから、おもしろさを優先しようといってくれたのが心強かったです。 大谷: ブラザーアタックは、3Dになった本作の大きな特徴ですよね。古田さんがお話しされたように、おなじみのブラザーアタックも成功したときの演出を変えることで、ますます魅力的になりました。 私は過去作に登場した“スピードボム”が好きなので、本作でも入れてほしいとお願いしたのですが、成功したときにもう一花咲かせてくださいとオーダーしたんです。最後にミサイルを連射するかっこいいものが上がってきたので、ほかのブラザーアタックも、攻撃が成功したときに追加の演出を入れていただきました。 ――みなさんのこだわりがつまっていると。ほかに印象に残っているブラザーアタックは?: 古田: フラッシュクロックですね。 雲野: マリオとルイージが素早く動き回ってかっこいいよね。 大谷: マリオの世界で、あの演出は大丈夫かなと不安になりました。やりすぎると、マリオぽい見えかたにならないし、かといって大人しすぎるとおもしろくない。どこまで攻めるかは、かなり悩みましたが、社内でも確認し、無事に実装できました。 新たな『マリオ&ルイージRPG』の音楽は坂本英城氏を起用 ――音楽の担当者が、下村陽子さんから坂本英城さんに変わったのも、本作でチャレンジしたところだと思います。坂本さんを起用した理由は? 大谷: 下村さんが手掛けてくださる音楽は、我々はもちろん、ファンの方たちにも非常に好評です。本作でも引き続きお願いしようかとも考えましたが、開発がアクワイアさんに変わったので、今回は音楽も心機一転して、別の方にお願いしようと。それで誰に依頼するかをアクワイアさんとも相談する中で、坂本さんのお名前が挙がりました。 大橋: 坂本さんは、『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』の作曲を担当されていて任天堂さんと仕事をされた経験がありますし、うちも『勇者のくせになまいきだ。』の楽曲などをお願いしていて、コミュニケーションが取りやすいので。 大谷: 私は、『勇者のくせになまいきだ:3D』のエンディング曲がすごく好きだったんです。このゲームと楽曲を手掛けられた大橋さんと坂本さんの名コンビなら、本作でもすごくいい音楽を作ってくださるのではないかと、ますます期待が高まりました。 ――作曲作業は、順調に進んだのでしょうか? 大谷: じつは、音楽でもマリオらしさがネックになりました。宮本(※宮本茂氏。任天堂代表取締役フェロー)にゲーム内容を見てもらったときに、BGMについて、「なんかふつうすぎる」と言われてしまい。 大橋: たしかに、ふつうだと言われたら、そのとおりだなって。そこからは、音楽におけるマリオらしさってなんだろうと、坂本さんと頭を抱えましたね(苦笑)。 ――解決の糸口となった、音楽のマリオらしさとは? 大谷: 本作に限って言えば、マリオとルイージがアクションしている姿をイメージしてください、と伝えました。それに、もっとにぎやかな音楽にしてほしかったので、ブラス(※金管楽器を主体に、打楽器などを加えた編成のこと)を意識してほしいともお願いしています。それ以降は、おふたりにお任せしましたが、マリオらしい楽曲が上がってきました。 大橋: 今回は大海原を巡る冒険に出るということで、最初の方針では、音楽でも壮大な雰囲気を出すようにしたんです。冒険の奥行きみたいなものも表現したかったこともあり、ゆったりとした音楽に仕上げてもらいました。でも、これはマリオらしくないという指摘を受けて、ブラスを加えつつ、坂本さんの提案で楽器を固定することにしました。南米の音楽で使われているような楽器に固定すれば、曲全体が明るくなるじゃないですか。その方向性に軌道修正してからは、スムーズに進みました。 ――全体で何曲ぐらい収録されているんですか?: 大谷: 最終的に100曲ぐらいになりました。しかも、生演奏で収録をしているんです。 大橋: 当初の予定では、60曲程度だったんですけどね。開発が進んで上がってきたカットシーンのデキがよかったので、汎用的な曲ではなくて、劇伴(※あるシーンの背景に流される音楽のこと)をちゃんと当てたいなと思って。シーンに合わせて必要な楽曲をリストアップし直したところ、100曲ぐらいになりました。 大谷: たしかに、シーンごとに作曲してもらった劇伴のほうが圧倒的にいいんです。 雲野: 大橋は曲を増やしたいと気軽に言いますが、60曲が100曲になっていますし、生演奏の収録日は決まっていたので、それまでに間に合うのかという不安はありました。 大橋: 収録前の坂本さんとのやり取りはすごかったですよ(笑)。いつまでにあと何曲仕上げないといけない。緊迫したスケジュールの中で、ギリギリまでブラッシュアップしました。 ――音楽も、アクワイアさんらしく尖ったものに仕上がっているのですね。最後に読者へのメッセージをお願いします。 大橋: この記事を読んで気になった方は、ぜひ遊んでみてほしいと思います。 『マリオ&ルイージRPG』を初めて遊ぶ方はもちろん、ファンの方もいろいろな発見が体験できるゲームを目指して開発しました。プレイしてくださった方の、心がしっかりと動かされるタイトルになっていると思います。 古田: 長く愛されてきたシリーズをお預かりして、新しい形でお届けするのは緊張もありましたが、形にできて非常にうれしく思っています。懐かしさも詰め込みながら、ここまでやるか!というくらい新しい挑戦と驚きに満ちた、大冒険が待っています。この船島での漂流を、どうかエンディングまでお楽しみ頂けますように。きっと、忘れられない旅になります。 雲野: アクワイアは、今年30周年を迎えます。そんな節目の年に、 『マリオ&ルイージRPG』の新作をリリースできたことは、とても光栄でした。弊社としては、ドラマチックなストーリーのRPGにも挑戦したいという思いがあり、本作でその夢を実現できたという手応えがあります。これまでのドタバタ劇だけではなく、心打たれる展開も用意していますので、ぜひ遊んでみてください。 大谷: アクワイアさんと出会う前は、一時は開発を諦めることも考えていました。こうして皆様のもとにお届けすることができて、とてもうれしく感じています。アルファドリームさんのDNAとそれを受け継いだアクワイアさんの意思を感じられる 『マリオ&ルイージRPG』に仕上がっていますので、手に取っていただけると光栄です。RPGってサブエピソードも含めてすべてクリアーしようとすると長くかかりますよね。でも、今日はこの島だけクリアーしようといった遊びかたもできますので、自分のペースで遊んでみてください。