博報堂DYグループ全体で進められるAIの研究開発
AI活用で広がる広告の可能性
博報堂DYメディアパートナーズに所属しながら先端クリエイティブ領域のAI事業開発を手掛けている松﨑健さんにも話を聞いた。 「私たちが開発したひとつの例はH-AI UpResというサービスですが、映像の高解像度化をAIで行うものです。広告は映像表現をよく使いますので、これが役立つと考えて開発しました。 例えば古い映画。画像が劣化した映画のリマスター版を作るとなると、以前は長い年月と高額の制作費がかかっていたのですが、AIを使って映像をすごくきれいにできるようになりました。それを活用したサービスができないかということで開発したのがH-AI UpResです。AI技術を用いることで、低画質映像データを、短期間かつリーズナブルな費用で高画質にすることができるサービスです。 例えば過去の番組のアーカイブや、最近多いサブスクリプションの動画配信でもニーズがあるでしょうし、過去の名作CMを高画質にして再放送することもできます。また例えばですが、過去の名作映画の有名なシーンを高画質化して、その俳優さんを、現在の俳優さんに入れ替えて登場させるなどの応用も可能です。時代を超えた共演といったところにこの技術を使うことで、広告のクリエイティブが新たな表現の幅を獲得できるわけです。企業イベントなどでも、昔の創業者や経営者が出ている映像を高画質にして再び流すとか、過去の1970~80年代の音楽ライブを高画質にして再販売するといったことも考えられます。実写のみならずアニメーションもかなりきれいにできることがわかっていますので、幅広い領域でニーズはあると思います」 開発しているのはそれだけではない。 「もうひとつ、よりレベルの高い生成AI技術を活用して、ユーザーと企業の関係を変えるH-AI NARRATIVEというサービス開発もやっています。NARRATIVEというのはストーリーと似た言葉なのですが、ユーザーを“物語”に巻き込んでいく考え方です。 具体的には、AI技術によって静止画を基に動画を生成できるのですが、例えば昔の古いモノクロの静止画像の一部を動画に変換して、いきいきと蘇らせるようなこともできます。この技術は実際ここ数年、海外では映画のプロモーションに使われたり、カンヌ国際広告祭でも受賞作品が出たりと、生成AIを広告クリエイティブに活用する新しいトレンドになっています。 ある広告キャンペーンでは、ユーザーの過去の古い家族の写真が、AI技術によって動き出し、いきいきと今に蘇るという主旨の企画が実際に行われはじめています。ストーリーテリングというのは、ブランドが一方的にユーザーにストーリーを語ることですが、NARRATIVEというのは、ユーザーにブランドの物語に参加してもらい、ブランドの物語に巻き込んでいく動きです。 生成AIによって大きく変わると思うのは、パーソナライズされた個々人のコンテンツや体験の提供が可能になることです。今までの広告コミュニケーションはマスに向けて行われてきたと思うのですが、今後はそれぞれ個別の、より深いコミュニケーションができるのではないかと思っています。 例えばスマホの自撮りで撮った自分の写真が動画になって、さらにある広告の中にも登場する、そんな映像が作れる。しかもユーザーはSNSでも拡散できる。そういったコミュニケーションが実現できるイメージですね。人気のタレントが車を運転しているCMの中に、自分が運転しているようなシーンが再現できるとして、そこからユーザー参加型のオンラインキャンペーンを展開する。イベント会場の入口で写真を撮れば、動画の中に自分が登場するシーンがその場でできてしまうので、それを基に集客したり演出をしたりといった展開もできる。こういったことは、結構AIが得意なところだったりするんです。そういった特性をうまく利用できないかなと考えています」(松崎さん) AIを活用した技術やサービスは、今後、予想以上のペースで私たちの周りで一般化していく可能性があるという。 「私たちはこの春くらいには、いくつか世の中に出る事例も予定していまして、社内外からかなり問い合わせもいただいています。広告のクリエイティブ領域において、生成AIの活用は、おそらく今後さらに重要性が増す気がしますし、いろいろなサービスを今後も開発していきたいと考えています」(同) 生成AIを使ってそういった取り組みをする企業も実際増えているようだ。生成AIが以前より身近に、しかも以前よりかなり安価な費用でできるようになったという時代背景が大きいようだ。 「生成AIを広告に活用する取り組みは、いま世界的に広がっていまして、広告クリエイティブにおいてもメジャーなトレンドになりつつあります。世界の広告祭でも生成AIを使った広告が受賞するケースは増えており、AI広告の新たなカテゴリーを作ってはどうかという議論もされているようです」(同)