グラスワンダー「まだまだ元気いっぱい!かなりの高齢なのに食欲はまったく衰えず」【もうひとつの引退馬伝説】
グランプリレースで無類の強さを発揮したグラスワンダーは、2歳時からすでにとてつもない強さをファンに見せつけていた。 【ガチ予想】2歳マイル王決定戦「朝日杯FS」をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! デビューからの3戦すべて圧勝で迎えた2歳王者決定戦の朝日杯3歳Sでは、並み居る強豪を差し置いて1番人気に支持され、レコードタイム(1分33秒6)で快勝。 その圧倒的な強さは、同じ外国産にして「スーパーカー」と称された怪物マルゼンスキーと比較されたほどだった。それだけに3歳以降の活躍が大いに期待されたが、その類まれなる能力の代償か、幾度かの故障に見舞われることとなる。 だがその都度復活を果たし、同世代のライバルと数多の名勝負を繰り広げ、多くのファンを熱狂させた。 そのグラスワンダーの現在の様子を、著名な競走馬の引退後を追った『もうひとつの引退馬伝説~関係者が語るあの馬たちのその後』(マイクロマガジン社)から一部抜粋・編集してお届けする。
「本当に手がかからない馬でね、これといったエピソードもあまりないんだよねぇ(笑)」 現在、グラスワンダーが余生を送っている明和牧場の牧場長、浅川明彦さんは笑顔でこう答えてくれた。 2000年の宝塚記念を最後に、現役を引退したグラスワンダーは、種牡馬として社台スタリオンステーションに繋養された。 そこでスクリーンヒーローやアーネストリーといった活躍馬を輩出すると、2007年にはブリーダーズ・スタリオン・ステーション、2016年にビッグレッドファームへとそれぞれ移籍。 2020年に25歳で種牡馬を引退し、功労馬としてやってきたのがこの明和牧場だった。 「ビッグレッドファームの岡田繁幸さんからは『いい馬だからよろしくね』という感じで引き受けました。最初見た時はとにかくガッチリとしていてデカい馬だなと思いましたよ」 種牡馬時代のグラスワンダーといえば、現役のころ以上に丸っこくなった馬体が印象的である。とくにタンポポを好んで食べたというエピソードは『ウマ娘』でも採用されたほどだ。 サラブレッドとしては高齢とされる25歳になった当時ですら、筋肉ムキムキで放牧地に出せばダーッと所狭しと走り回るほどだったという。 それだけに浅川さんが抱いた「ガッチリとしたデカい馬」という印象はグラスワンダーにピタリとハマった。 明和牧場にやってきた当時は、放牧されるとあちこち駆け回るほど元気だったが、年を取るごとにそうした活発さは薄れ、29歳となった今では走り回るようなことは少なくなったという。 その代わりに放牧地をゆったりと歩いては生えている青草を食べ、のんびりと過ごしている。 年齢を重ねるに従って、はちきれんばかりだった馬体は、丸みを帯びたままではあるものの、徐々にしぼみ、現在の馬体重は550キロ~560キロほど。 それでも巨漢だが、600キロは優に超えていたという4年前と比べると、だいぶスリムになった印象を受ける。 ただ、幾分体重が落ちたとはいえ、食欲は相変わらずだそうだ。明和牧場では1日に3~4回ほど食事を与えているが、グラスワンダーは馬房に戻って食事をする際、用意された飼い葉をしっかりと食べ切るという。 29歳という年齢もあって、さすがに歯が悪くなってきたため、飼い葉は細かく砕かれ、ニンジンなどもフードプロセッサーで細かくしてから与えられる。 それを一度に大量にではなく、ちょこちょことつまむ感じで食べ、毎回ぺろりと平らげてしまう。そのため浅川さんは、馬体が増え過ぎないようにカロリーを抑えた食事を用意するほどだ。 「人間でいえば、80歳を過ぎても公園でゲートボールしたり、身体を動かしたりするのが大好きな元気なおじいちゃん」と、現在のグラスワンダーを評した浅川さんだが、その体調には常に目を光らせている。 「朝から放牧地に出して、夏の時期は午前中には馬房に入れてしまうけれど、放牧地でごろごろしていると、やっぱり不安になりますよ。大体はすぐ立ち上がるんだけどね(笑)。サラブレッドは25歳までに亡くなることも多いけれど、それを過ぎると不思議なもので長生きしやすい。この馬も他の28~29歳の馬と比べると健康だし、もしかしたらシンザンの35歳を越えるかもしれないね」