<ハリス陣営最後の賭け>トランプ「危険な資質」徹底攻撃は奏効するか
「黒人候補」であることも、ハリス氏にとって不利な戦いを強いられる要因となった。 09年、米国史上初の黒人大統領となったバラク・オバマ氏の場合、前年11月大統領選で投票総数の53%を獲得、ジョン・マケイン共和党候補に8%の差をつけ勝利したが、白人票に限定した場合、マケイン候補(55%)がオバマ候補(43%)に12%もの大差をつける結果となった。 オバマ氏が再選を果たした12年大統領選においても、同氏に対する白人男性の投票率35%、白人女性投票率も42%にとどまった。 今回選挙での白人有権者動向について、ロイター通信の最新調査によると、男女合わせた白人支持率は、トランプ候補50%に対し、ハリス候補40%となっている。このうち、白人男性の場合、トランプ候補54%、ハリス候補36%と、大差がついている。 ハリス候補の第三のハンディキャップである時間的準備不足についても明らかだ。 トランプ氏は20年大統領選で敗退以来、再起を期して着々と態勢を整えてきた。あり余る時間を使い、さまざまな戦略構築、選挙スタッフの人選、資金集め、メディア対策に余念がなかった。 一方のハリス氏の場合、去る7月21日、バイデン大統領が再選めざした選挙戦からの突如の撤退を受け、いわば“代打”の形でのドタバタの出馬となった。本格的な選挙戦の態勢が固まったのは、8月に入ってからだった。 しかも、バイデン政権下の現職副大統領としての立場上、いきなり斬新な”ハリス色“を打ち出すわけにいかなかった。政策面でも不人気だったバイデン氏と異なる独自の政治理念をマスコミ向けにアピールする時間的余裕もなかった。 実際に、記者会見などの場で、「有権者にどんな候補者なのかのメッセージが伝わっていない」との批判にさらされ続けたが、無理からぬ事情があったことも事実だ。
ハリス陣営の突破口となった“爆弾発言”
しかし、こうした“逆境”の中、選挙戦終盤に入り、ようやくハリス陣営が攻勢に出始めた。 それが、トランプ候補の「危険体質」についての徹底攻撃だった。 その引き金となったのが、トランプ政権下で“首相”の立場にある大統領首席補佐官だったジョン・ケリー元海兵隊大将の“爆弾告白”だった。 首席補佐官就任前まで国土安全保障長官、大統領補佐官(国家安全保障担当)としてもトランプ大統領の信頼が厚かったケリー氏は去る10月21日、ニューヨーク・タイムズ紙との単独会見で「間違った人物を米国の最高ポストに就かせるのは非常に危険だ」として、在任中毎日のように身近に接触してきたトランプ氏の「人物評」について、次のような点を大胆に指摘した: 「彼はファシストだと思う。『ファシズム』の定義は、極右権威主義的であり、独裁的指導者に特徴づけられる超国家主義的イデオロギーと運動であり、中央集権化した専制体制、軍国主義、反対勢力の強圧的封殺だとすれば、まさに彼はそれに合致する。私の(彼との)接触経験から言えば、彼はそうした政府の在り様が国家統治の最善策と信じ込んでおり、彼は最右翼に位置し、全体主義者であり、実際に独裁者であるプーチンや金正恩を称賛している」 「彼は政治の在り方について、政府ではなく独裁体制がより好ましいと考えている。彼は、自分が世界最強のパワー保持者でないという事実を決して受け入れることはなく、そのパワーの意味するところは、あらゆることがいついかなる時でも自分の思い通りになることを指している。これまで自分のビジネスでやってきた通り、相手は自分の命じた通りに動き、思い通りに事が進むと信じており、命じたことが法に触れるかどうかなどは一切気に掛けることはない」