時計界のアカデミー賞「GPHG」受賞作を引っ提げ来日したレイモンド・ウェイルCEOに「優良価格」の秘訣を聞く
–そういえばここにはありませんが、サーモンダイアルのセンターセコンドモデルがありましたよね? 定番色で固めたバリエーションのなかで少し異色な印象を受けました。 「あれは、個人的に好きなカラー。私自身がトラディショナルな意匠が好きなのでミレジムにもマッチすると思い、これだけは社長権限で入れてもらいました……冗談ですよ(笑)」 –最後に少しミレジムから離れた質問ですが、昨年にバスキアとのコラボモデルを出し、世界的にかなり反響があったそうですね。過去にはAC / DC、ザ・ビートルズ、デヴィッド・ボウイなどとのコラボウオッチもあります。こうした取り組みもかなりユニークです。こうしたコラボはどのような流れで完成に至るのでしょうか? 「今回のバスキアモデルに限らず、アーティストコラボレーションについては私がまず直接アーティストの権利関係を持つ団体にコンタクトを取ります。『今度、そちらのアーティストとのコラボレーションしたい』と。そこから交渉を重ね、承諾を得たらデザインのやりとりなどを経て完成に至ります。そうしたアプローチを始めるのは、完成からさかのぼっておよそ1年半前ぐらいでしょうか。レイモンド・ウェイルは音楽とのつながりを大切にしてきましたし、そうしたアート&カルチャーを感じていただけるブランドであることをお伝えするためには、こうしたアーティストコラボは欠かせません。次のコラボレーションの相手ですか? それはお教えできません。ですが、2年後には創業50周年という大きな節目を迎えるので、ぜひ今後の私たちの展開にご期待ください」
取材後記
筆者にとってエリー・ベルンハイムさんとのインタビューは今回が2度目。前回はフリーランサーのGMTモデルを見せてもらい、その際に次のアーティストコラボの計画がある、とも教えてもらった(それがバスキアモデルを指していた)。それから約1年後、GPHG受賞というビッグニュースとともに再来日。今後はフリーランサーとミレジムを大きな柱として展開していくと語っていた。こうした生産コントロールの臨機応変な対応も家族経営による独立ブランドならでは。そしてその判断がレイモンド・ウェイルの価格維持につながっていることは言わずもがなである。 インタビュー本文では触れなかったが、「レイモンド・ウェイルはこれからも1万~5万スイスフランで時計を作り続けていく」と、エリーさんは言い切っていた。そして「私たちには競合ブランドは不在である」とも。クラシック、ヴィンテージ、トラディショナルといった要素に、アート&ミュージックというバックグラウンドを含んだレイモンド・ウェイル流のモダンなエッセンスを加えることで、他にはない時計を作り出す。その評価のほどはGPHG受賞だけでなく、審査が厳しいと言われる世界最大規模の時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」への出展決定からもうかがい知れる。2年後には創業50周年も控えるなど、まだまだ話題の続きそうなレイモンド・ウェイルを筆者は引き続き注視していきたい。
TEXT/Daisuke Suito (WATCHNAVI)