[Alexandros]川上洋平さん 大学入試の会場で、運命の出会い
音楽のために、就職を選ぶ
――卒業後はいったん就職したのですね。 大学には6年も通ってしまいましたが(笑)、まだ音楽で食べていける状況ではありませんでした。バイトしながらバンド活動を続けるか、もしくは就職して正社員で働きつつデビューを目指すか、迷いました。どちらにしても自分の思いとしては、音楽で生計を立てるまでの期間をつなぐための選択肢というつもりでした。レコーディングの費用や機材の購入費などもかかるし、経済的に安定したほうが音楽活動に打ち込めると思ったので、就職しました。 仕事は、精密機器を取り扱うBtoB(企業間取引の事業)の会社の営業職でした。3年間勤めましたが、自分は仕事に向いてないんだと痛感させられました。組織のなかで「だれかが作ったものを売る」ということが僕には難しかったんです。自分で作ったものを売るほうがまだ向いていたかもしれません。けれど、会社というのはそういう場所ではなくて、作る人、売る人という役割分担があって成り立っていくもので……。本当にダメ社員だったから、今でも当時の上司の方に対しては、申し訳なかったなと思っています。 ――そもそも、いずれバンドをやるために選んだ就職ですからね。 ただ、会社勤めをした3年間で学んだこともたくさんあります。社員の中には、仕事自体はそれほど好きではないけど、「愛する家族のために頑張っている」という人もいました。そのときにわかったのは、どんな仕事をするにしても、人生においては、「自分にとって大事なものをしっかり持っているか」が重要なんだなということでした。 僕にとっていちばん大事なのは、もちろん音楽です。何度も壁にぶつかったけれど、「俺には音楽がある」という気持ちはまったく変わらなかったし、音楽を嫌いになることもありませんでした。目標があったからこそ、自分には向いていない会社勤めを逃げ出さずに3年続けたし、むしろマイナスな気持ちを音楽にぶつけて、そこから生まれた曲もあります。一度、音楽から離れて、社会に身をおいたことで、音楽は自分にとって普遍的なもので、ずっと愛を注ぐことができるということを確かめられたのもよかったと思っています。 [Alexandros] 川上洋平/1982年、神奈川県生まれ。ロックバンド[Alexandros]のボーカリスト兼ギタリスト。9歳から14歳までシリアで過ごした経験を持つ。2007年、青山学院大学法学部卒業。24年9月18日ニューシングル「SINGLE 2」が発売。
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