「養育費は月1万6千円です」小児がんの息子を看病する女性を絶望の底に突き落とした通告 「父の日」が襲う恐怖とは…
だが、「堕ろすか生むかは私が決める」と伝えた直後、驚くべき言葉が返ってきた。「結婚しよう」。続けてこう言われた。「一緒に生きよう。命より大事な音楽なんかない」。うれしくて涙があふれた。そしてこう考えた。「きっとパニックで堕ろしてほしいと口走ったのだろう」 一緒に住むところを探した。出産後に備え、それまでの1Kから2LDKへ。物件の諸経費や引っ越し代、新しい家具や家電といった初期費用はすべて松本さんが負担した。この頃、彼にこんなLINEを送っていた。「妊娠届に父親の名前を書く欄があって照れながら書いた」。返事は「てれぽよ」。つわりでつらかったが幸せだった。 7月、都内のマンションで一緒に暮らし始め、最初の1カ月は順調そのものだった。彼はライブが終わるとすぐに帰宅した。「早く生まれないかな」「いつ籍を入れようか」。ごくありふれた会話をした。 彼は「子どもの名前は何にしようか」と言っては、「女の子 凜」「男の子 朔、暖、匡…」と候補を送ってきた。
彼は正社員になることも考えてくれた。「2人のために頑張る」と言い、「初めの年でも年収320万円はいきそう。正社員に切り替えてすぐはボーナスは低いけど。リーダーとか役職にもついたり、資格取ったりして頑張って稼ぐね」と約束してくれた。 ペアの指輪も買ってくれた。ティファニーの一番安いものを一緒に選んだ。彼の収入を考えると、うれしかった。 ▽暗雲 いよいよ両親に会いに行くことに。だが、ここから雲行きが怪しくなる。松本さんの説明によると、経緯はこうだ。 8月、先に松本さんの実家のある奈良へ。若く、フリーターである彼のことを親から何か言われるのではないかと心配したが、杞憂だった。誠実な態度が好評だった。 彼はこう宣言した。「結婚して正社員になり、子どもを幸せにします」。そういえばスーツ姿は初めてだった。心配していた分、ほっとした。 2週間後、今度は岩手へ。彼の両親は離婚していて、父親は所在不明。母親は体が弱く、北海道に住む彼の叔母が世話をしていた。彼の母と祖父母、さらに叔母夫妻とその子どもが出席した。