自動車研究家の山本シンヤがTGRラリーチャレンジにコ・ドライバー参戦! 参加すればわかる! ハマりますよ!!
クルマでスポーツしよう!
JAF公認競技ながら、参加ハードルの低さが魅力の「TGRラリーチャレンジ」。2007年に初めて参加し、今やトヨタ自動車副会長・早川氏のコ・ドライバーとして参戦を続けている自動車研究家の山本シンヤが、ラリーの魅力をリポートする。 【写真21枚】山本シンヤさんが参加したTGRラリーチャレンジ八ヶ岳茅野の写真はこちら! ◆人気の秘密は「ハードルの低さ」 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2017年からWRC(世界ラリー選手権)に参戦。最大のミッションは「勝つ事」だが、その本質は「勝利できるようなクルマづくり」と、「その技術を市販車へフィードバックすること」だ。これはTGRが参戦するすべてのモータースポーツ・カテゴリーに共通するが、中でもラリーは「普段走る道でいかに速く走るか」を競う競技だ。普段走る道で極限の状態を「経験」することで、人が鍛えられ、クルマが鍛えられる。というわけだ。 その一方で、ラリーの入り口と言ってもいい存在が「TGRラリーチャレンジ(通称:ラリチャレ)」だ。国内ラリーの入門編として、その前身となる「TRD Vitz challenge」から数えると22年の歴史を持ち、「参加型モータースポーツ」の代表格と言える存在で80台のエントリー枠は毎回エントリー開始と共に埋まってしまうほど。 その人気の秘密はエントリーする上での「ハードルの低さ」だ。JAF公認競技のため国内Bライセンスは必要だが、GRヤリスやGR86などのスポーツ・モデルのみならず、ヤリスやアクアなどのハイブリッド車は2ペダルでも参加可能。エントリーはWebから簡単に出来る上に、参加費も他の競技と比べるとリーズナブル(4.4万円)な設定だ。 車両はロールケージや安全ベルトなど安全規定によって定められたパーツは装備が義務付けられるが、改造範囲は限られているので比較的安価に製作が可能(サポートショップをラリチャレのサイトで紹介)。また、初心者の不安を解消すべく、エントリー前には練習会もある。経験豊富な講師からラリーのイロハを学べるなど、サポートも充実している。 ラリーは一般道を競技に用いるため、開催するためには地域・住民との連携も非常に大事である。ラリチャレの主催者はTGRだが、単なるラリーに対する理解活動だけに留まらず、広い意味で地域の「町おこし」の手段としての提案を行なっている。要するにラリーを開催する→人がたくさん集まる→地域にお金を落としてくれる→街が活性化する→またラリーを開催したくなる……という天使のサイクルの実現だ。 そこで、最近では競技以外のイベントにも力が入っており、競技車両や働くクルマなどの展示、地元名産品やグッズの販売、キッチンカーの出展、ステージ・イベント(ライブやトークショー)はもちろん、開催市長も参加する前夜祭や花火の打ち上げなどを行なう地域もあるのだ。 更にTGRも、ラリーを通じて開催地域の観光やグルメなどの魅力を発信する「ラリーツーリズム」というコンテンツを提供。つまり、ラリーを「年に一度のお祭りのような感覚で活用してください」というわけだ。ちなみに今回参戦したラリチャレ八ヶ岳茅野は、事前にポスターやTV―CMなどによる告知も相まって、2万人以上の集客があったそうだ。 ◆業界の大先輩に誘われて そんなラリチャレに筆者は古くから参戦している。初ラリーは2007年で当時所属していた編集部の企画だった。本当は1戦のみのスポットの予定が、あまりの面白さから編集長に直談判してシリーズを戦った。当時は運転技量も未熟だったので表彰台には上がれなかったが、何度か入賞を経験したのはいい思い出。 これをキッカケに参加型モータースポーツの魅力にハマり、仕事の合間にサーキットレースを中心に参戦。何度か優勝や入賞を経験している。 そんな筆者が再びラリーの世界に戻ったのは2018年。同業の大先輩・清水和夫氏から「シンヤ君、コ・ドラできるよね?」とオファーを受けて参戦したラリチャレ渋川でクラス4位。ここでコ・ドライバーの重要性と面白さを知り、訓練をスタート。参考書『ラリーナビゲーター入門』と先輩コ・ドラからのアドバイスやレクチャーを元に勉強した。 その甲斐あって、2018年のラリチャレ高岡万葉戦では同業の佐藤久実氏と組んでクラス3位、2021年のラリチャレ渋川では執行役員でTCカンパニープレジデントの新郷和晃氏と組んでクラス3位と表彰台も獲得。そんな戦歴が評価されたのか(!?)、現在はTGR―WRG(ワールド・ラリー・蒲郡)で早川茂副会長のコ・ドラを担当している。実はこれは、筆者が時々ラリチャレに参戦している事をチェックしていた豊田章男氏から直々にオファーを受けた話で、早川氏のコ・ドラの参加が難しくなったため、筆者に“白羽の矢が立った”のだ。 そんな早川氏のマシンはGRヤリスだが、当時はまだ開発中だったDAT(ダイレクト・オートマチック・トランスミッション)のテスト車両だ。このクルマの生い立ちを簡単に説明すると「MTとガチンコ勝負できるATが存在すれば、モータースポーツの裾野を広げるキッカケになるのでは?」という豊田氏の強い思いから開発がスタート。目指すは「Dレンジのままで意のままの走りを実現させる“完全”な自動変速」だ。開発はモリゾウ選手や勝田範彦選手をはじめとするプロドライバーも担当しているが、実はメインの開発ドライバーは早川氏。この理由は単純明快で「モータースポーツの裾野を広げる」モデルだからこそ、ターゲット・カスタマーに近い存在の人に不具合を出してもらうのがベストという考えによるものだ。 世の中には優秀なコ・ドラは沢山いると思うが、「トヨタのクルマづくりの本質を知り、その模様を記事化して発信できるコ・ドラ」はと言うと? 恐らく筆者だけだろう(笑)。 ◆ドライバーと一心同体 そんな中、参戦者の一人として「ラリーの魅力は何か?」と言われると、一番は「観戦する人との距離が短い事」だと思っている。日本のラリーは安全性の観点から競技区間(SS=スペシャルステージ)での観戦場所は限定されるが、ラリチャレでは短い距離だがギャラリーステージ(公園の取付け道路やミニサーキットなど)を用意。ラリーカーの迫力ある走りを身近で見ることができる。 更に競技開始(セレモニアルスタート)やSS間の移動区間(リエゾン)などで、たくさんの旗を振って応援してくれている人の姿と「頑張って!!」という声援に対して「ありがとう!!」という言葉が自然と出てくる双方向コミュニケーションは、参戦者としてはとても嬉しい。恐らく、これはラリーでしか味わえない醍醐味である。 もう一つの魅力は「ラリーはチーム競技」である事。ドライバーとコ・ドライバーは「夫婦のような関係」と言われるが、コ・ドラは単なる道先案内人ではなく、「ドライバーを思い通りに操り、正確に誰よりも速く走らせること」が最大のミッションだ。勝つためにはドライバーと一心同体で走らないとダメだし、クルマの不具合や不調を感じてエンジニアやメカニックにフィードバックを行なうのもコ・ドラの役目の一つだ。 今回出場したラリチャレ八ヶ岳茅野では、前回出場した沖縄戦での反省からペースノートの精度向上や指示タイミングを的確にする事を心がけた。更に前回上手く作動しなかったローンチコントロールのカイゼン(正確な作動)も相まって、ターマック(舗装路)では上位に食らいつくタイムを連発できた。 しかし、その一方でグラベル(非舗装路)ではDATの変速が意図通りに行かず失速してしまった事、室内のクモリが原因の視界不良でスピード・ダウンせざるを得なくなりタイムを伸ばせなかった事は反省点。ちなみに結果は78台中11位だった。 この辺りはすぐにエンジニアにフィードバックしており、次戦までには何らかのカイゼンが行なわれるだろう。すでにDATの発売は開始されたが、それでも常に進化を止めない姿勢こそが、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の根っこと言えるだろう。 実は当初はステアリングを握らないコ・ドラを担当する事に不満もあったが、今ではその魅力に引き込まれている。最初はペースノートの指示とドライビングが噛み合わず苦労もしたが、それがピッタリ合致していいタイムで走れた時の嬉しさはコ・ドラにしか分からない“喜び”だ。 またメカニックやエンジニア、マネージャーも大事な仲間。彼ら無くしては走ることはできないので、常に感謝しかなく、競技中は常にチーム皆の想いを背負って走っている。 そんなラリチャレの2024年シーズンは北海道から九州・沖縄まで全12戦+特別戦を開催。クルマ好きな本誌読者には、是非とも参加をしていただきたい。入り口は身近だけどラリーの奥深さにハマると思う。 文=山本シンヤ 写真=真壁 強、TOYOTA GAZOO Racing (ENGINE2024年7月号)
ENGINE編集部
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