団地再生の新モデルになるか 「ソーネおおぞね」の試み(上)
1970年代半ばに建てられ、全盛期には全480戸が埋まった名古屋市北区の「大曽根住宅」。愛知県住宅供給公社が手掛けた築40年以上の団地ですが、高度経済成長期に育った子どもたちが巣立ったあとは高齢化が進む一方で、一昨年までに約3分の1が空室という状況になってしまいました。 団地再生の新モデルになるか 「ソーネおおぞね」の試み(下) かつては多くの住民たちで賑わった1階のスーパーマーケットも撤退し、しばらく空いたままになっていましたが、この空きスペースに今年3月末、カフェやショップ、イベントスペースなどが集まった複合コミュニティー施設「ソーネおおぞね」がオープンしました。高齢化の進む団地の活気を、さまざまな世代が交流できる場所をつくることで取り戻そうという試みで、全国的に同様の問題を抱える団地が増える中、名古屋では「団地再生の新モデル」として注目を集めています。
情報交換や交流の場に
2011年の「高齢者の居住の安全確保に関する法律(高齢者住まい法)」改正によってできた新制度「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」。「ソーネおおぞね」は、大曽根住宅に点在する空き地をサ高住として整備するのに合わせて誕生しました。 「ソーネおおぞね」をつくるのに尽力したのは、北区内のNPO法人「わっぱの会」でした。わっぱの会は、障がいを持つ人も持たない人も共に働き、共に生きる社会を実現しようと活動するグループです。1970年代から市内に障がい者の共同作業所を開設し、入所者がつくる無添加パン「わっぱん」が評判になり、市内14拠点で20の事業を展開しています。 わっぱの会の斎藤縣三代表は「ソーネおおぞね」を「市民に喜んでもらう場所にしたかった」といいます。そのために、障がい者や高齢者が働くとともに、来店者が単に飲食したり、ものを買ったりするだけではない「情報交換や交流ができる場」を目指しました。
5つの機能
防災NPO「プラス・アーツ」代表であり、神戸市で旧生糸検査所を改修した「デザイン・クリエイティブセンター神戸」などのプロジェクトを手掛けた永田宏和さんがデザインに携わった施設は、ロゴや内装にこだわり、これまでの団地のイメージを覆すおしゃれで親しみやすい雰囲気を醸し出しています。 そして、「ソーネおおぞね」の施設には5つの機能があります。 わっぱの会のパンや県内の障がい福祉サービス事業所でつくられた雑貨などが並ぶ「ソーネショップ」、多用途に利用できる「ソーネホール」、困りごとを専門家に相談できる「ソーネそうだん」、古着や缶類などさまざまな家庭の資源を買い取ってくれる「ソーネしげん」、そして施設の賑わいの中心となっている「ソーネカフェ」です。 グランドオープンより一足早く、17年秋に開業していた「ソーネしげん」は、名古屋市近郊の津島市や弥富市で取り組まれていた資源回収拠点の手法を取り入れています。古紙や使用済みのびん、缶などの資源を「ポイント」制で引き取ります。ポイントは、現金や施設内のカフェで利用できます。資源を持ってくるのは主にお年寄りや親世代ですが、ポイント制という遊び要素のおかげでイベントを開くと子どもたちが集まってきます。子どもたちが気軽に集まる仕掛けのおかげで、世代間交流も進むといいます。 朝は6時25分から「ソーネホール」で健康促進のため「テレビ体操」を行っており、その後「ソーネカフェ」でモーニングを楽しむ参加者も多いそうです。ランチタイムにはさらに多くの人でにぎわいます。この春のグランドオープンで各施設間の連携がさらに高まり、より一層、多彩な人たちでにぎわうようになりました。「団地という立地から高齢者の利用が多いのですが、最近は親子の姿が増えてきました。オープンから数カ月経ち、3世代が集える場所として定着しつつあります」と斎藤さんは目を細めます。