爆音と人が死んでいく恐怖の中での生活しか知らない子どもたちに、ダンスを教えるウクライナ人女性「言葉では表現できない。だから踊る」という理由
戦場にいる男にとっての精神的な救い
1週間というつかの間の幸せな時間をオレクセイと過ごしたヴィカがキーウへ戻る日がやってきた。13時30分発、クラマトルスク発キーウ行きの列車のホームには出発ギリギリまで別れを惜しむ夫婦や恋人たちの姿があった。電車のドアから身を乗り出してオレクセイを抱きしめて何度もキスをするヴィカ。 「彼女の存在は天からのものだと思う。戦場にいる男にとって愛する人がいるということは精神的に救いになる。俺は彼女が帰ってしまったとは思わない。いつも自分の後ろにいるって思っている」 ドアが閉まり列車はゆっくりと動き出す。ドアのガラス越しに見えるヴィカが遠ざかっていく。オレクセイは列車が見えなくなった後もしばらくその場に立ちつくしていた。 私はそれを見とどけた。戦場で生き延びて愛する妻に再び会えることを願って。 取材・文・撮影/横田徹
---------- 横田 徹(よこた・とおる) 1971年茨城県生まれ。97年のカンボジア内戦をきっかけにフリーランスの報道カメラマンとして活動を始める。インドネシア動乱、東ティモール独立紛争、コソボ紛争など世界各地の紛争地を取材。9.11同時多発テロの直前、アフガニスタンでタリバンに従軍取材し、2007年から2012年まで、タリバンと戦うアメリカ軍に継続的に従軍取材を行う。13年には、ISISの拠点ラッカを取材。10年には中曽根康弘賞・奨励賞を受賞。主な著書に『戦場中毒 撮りに行かずにいられない』(文藝春秋)など。 ----------
横田 徹