コマツとキャタピラー、建設機械トップ2社の「意外な大差」の正体
ROEは、株主に帰属する利益である当期純利益を株主に帰属する資本である純資産で割った指標で、自己資本利益率とも呼ばれる。株主が投資したお金(純資産)に対して、株主に帰属する利益(当期純利益)をどれだけ生み出したかを測る指標だ。株主の視点を経営に取り入れる上で有効な指標だといえる(なお、厳密にはROEの分母に用いるのは純資産から新株予約権と非支配株主持分を差し引いた自己資本だが、ここでは単純化した式を使用している)。 24年3月期におけるコマツのROEを計算してみると、約12%となる。日本で上場する製造業におけるROEの平均値が9~10%前後であることを踏まえると、コマツのROEはやや高い水準だ。 続いてROAについても解説しよう。ROAは、利益を総資産(資産合計)で割った指標で、総資産利益率と呼ばれる。その会社が使っている総資産を、いかに有効活用して利益を生み出しているのかを表す指標だ。ROEの分子には株主に帰属する利益である当期純利益のみを用いるが、ROAの分子には目的に応じてさまざまな利益(当期純利益のほかに営業利益など)を用いる。 今回はROEと分子をそろえ、当期純利益を分子としたROA(総資産当期純利益率)を計算してみると、24年3月期におけるコマツのROAは約7%という結果になった。ROAの分母である総資産の金額がROEの分母である純資産より大きいため、ROAはROEに比べて低くなっている。
● ROEが驚異の50%超え なぜキャタピラーの収益性は高いのか? 続いて、キャタピラーの決算書(23年12月期)を見ていこう(下図)。 B/Sの左側で最大の金額を占めているのは、コマツと同じく流動資産(約469億4900万ドル)である。ここには、売上債権が約188億2000万ドル、棚卸資産が約165億6500万ドル含まれている。売上債権は売上高の約102日分に、棚卸資産は約90日分に相当する。 次いで大きいのは投資その他の資産(約219億7500万ドル)で、その大半が長期売上債権(約139億200万ドル)だ。長期売上債権が大きい点もコマツと共通している。また、有形固定資産は約126億8000万ドル計上されている。 続いてB/Sの右側を見てみると、流動負債が約347億2800万ドル、固定負債が約332億4500万ドル計上されている。それぞれに含まれる有利子負債は、流動負債に約134億600万ドル、固定負債に約244億7200万ドルとなっている。純資産は約195億300万ドルで、自己資本比率は約22%とコマツよりも低い。 P/Lでは、売上高が約670億6000万ドル計上されているのに対し、売上原価は約427億6700万ドル(原価率は約64%)、販管費等は約113億2700万ドル(販管費率は約17%)となっている。当期純利益は約103億3500万ドルで、売上高当期純利益率は約15%だ。コマツの売上高当期純利益率は約10%だったから、キャタピラーのほうが約5ポイント高い。その主な理由については、後ほど解説することにしよう。 続いて、ROEとROAについても見ていく。23年12月期のキャタピラーにおけるROEは約53%となっており、コマツの約12%と比べても非常に高い。また、キャタピラーのROAは約12%で、こちらもコマツの約7%よりも高くなっている。 先ほど述べた通り、日本で上場する製造業におけるROEの平均値が9~10%前後であることを踏まえると、50%超というのは「驚異の数字」だといえる。なぜキャタピラーのROEは超高水準なのか。コマツと差がついた要因は何か。後編で詳しく解説していこう。 矢部謙介(やべ・けんすけ)/中京大学国際学部・同大学院人文社会科学研究科教授。ローランド・ベルガー勤務などを経て現職。マックスバリュ東海社外取締役も務める。X(@ybknsk)にて、決算書が読めるようになる参加型コンテンツ「会計思考力入門ゼミ」を配信中。著書に『決算書の比較図鑑』『武器としての会計思考力』『武器としての会計ファイナンス』『粉飾&黒字倒産を読む』(以上、日本実業出版社)など。 https://x.com/ybknsk
矢部謙介