市村正親が語る「俳優業で大好きなこと」自分とはかけ離れた人物も「魂がその役になればどんな役でもできる」
俳優・市村正親さん(75)は、戦後、舞台俳優として自ら劇団青俳を立ち上げ精力的に活動した俳優の西村晃氏の付き人を経て、73年に劇団四季の『イエス・キリスト=スーパースター』で俳優デビュー。以降、同劇団の看板俳優として『オペラ座の怪人』など数多くの舞台で主演を務め、退団以降もミュージカル『ミス・サイゴン』や、一人芝居『市村座』、ストレートプレイ『炎の人』などで活躍し、多数の演劇賞を受賞している。その圧倒的な存在感と歌声、確かな演技力で多くの舞台ファンから支持を得ている市村さんにとって大きな変化、「THE CHANGE」は何だったのだろうか?【第2回/全4回】 ■【画像】渋い!ダンディなジャケット姿、市村正親さん取材時のポートレート■ 日本演劇界の中心的存在として、他の追随を許さない俳優・市村正親さん。今作のように「声」だけで表現することの面白さや、どんな場であろうと、自身が演じるうえで心がけていることを伺った。 ――今回の『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』は、冒頭から素晴らしい映像美に引き込まれましたが、声をあてることに映像の影響はどれほどあるものなのでしょうか。 「今作は激しいものから静かな音まで、割と音が入っている時間が多く、アニメーションの技術も素晴らしいんですよ。完成された映像を見ているこちらは、まだ完成されてない人間が声をあてているので、ついていくのにもう必死です。とにかく“この素晴らしい映像に負けちゃいられないな、それにちゃんと合う声の仕事をしなくちゃいけないな”と思って臨んでいます」
声だけでお芝居するところの面白さ
――声だけでお芝居する面白さをどんなところに感じますか? 「ヘルムは大柄な男性なのですが、自分の体型がどうであろうと、自分の魂がその役になればどんな役でもできるところが面白いんですよ。 たとえば、『サザエさん』に出てくるタラちゃんの初代声優を務めた貴家堂子さん(23年に87歳で逝去)のように“あんなに年配の方がタラちゃんの声をやっていたの?”と思った方もいらっしゃるでしょう。 姿形がどうであろうと、魂がその役になっていればヘルムもできるし、タラちゃんもできる。そういうことだと思うんです。だから声優や俳優を仕事としている人のイマジネーションや想像力が、役に反映していくのだと思っています」 ――では、逆に難しいと思うことは? 「難しいことをするのが、俳優という仕事の大好きなところなんです。“他人の人生を生きてみたい”と思ってこの世界に入ったわけだから。まして、こんな強烈な役を疑似体験できたことは貴重な経験だし、目をつぶれば、自分がそこに“ヘルム”として“居る”と言い切れる。そこが楽しいから、難しければ難しいほどトライのしがいがあるし、前に進もうと思えるんです」 ――今作は、どこかシェイクスピアの舞台を連想するような印象も受けました。 「それこそあと10日ぐらい練習できていたら、シェイクスピアをやっているような形でできたかなと思います。ただ、舞台は声を張らなければいけないけれど、今作はアニメなので、録音マイクにすべてをぶつける気持ちでやっています。それでもある程度、劇場でやるくらいのパワーも出さなければいけない。やはりそこは両方やらなければいけないかなと思います。 僕もシェイクスピアの作品は『ロミオとジュリエット』、『ハムレット』、『ヴェニスの商人』、『マクベス』と、美味しい作品を全部やらせてもらっているので、残っているのはもう『リア王』くらいかな」 ――『リア王』は、シェイクスピア四大悲劇の一つと言われている作品ですね。 「なので、このような作品をやっていると、心の片隅で“これは『リア王』の布石なのかな”と思ってしまいますね(笑)」