名前が漢字で書けない...!?57歳で認知症になった姉。病と向き合い、日々の楽しい出来事を漫画で発信する理由とは【作者に聞く】
高齢化の進む日本において、身近な病気であるといえる認知症。その中で、65歳以下で発症するものは若年性認知症と呼ばれている。姉が若年性認知症と診断を受けた、まるまとまるな(@marumatona)さんは、note「若年性認知症の姉と過ごす日々の漫画」で、姉との楽しかった日常の出来事を発信している。つらい、大変といったイメージも多いなか、ポジティブな発信を続けるまるまとまるなさんに、漫画を描いたきっかけや、姉が認知症になって感じていることなどを聞いた。 【漫画】「若年性認知症の姉と過ごす日々の漫画」0-1 ■「ずっとお友達でいてほしい」認知症の姉との楽しい日常を描いたきっかけとは イラストレーターとして活動しているまるまとまるなさんの姉・Nさんは2018年、57歳のときにアルツハイマー型認知症と診断された。6年経った現在、Nさんの生活の様子や症状について聞いた。 「失語症状が激しく、会話はほとんどできません。こちらの言うことはある程度理解できますが、たまに理解できないことや、失行と呼ばれる症状もあります。身体的には問題なく、散歩したりテレビを見たり、音楽を聴いたりすることは楽しめています。週5回デイサービスに通うほか、ボランティアさんと散歩や、お友達とランチに連れて行ってもらうこともあります」 実は、まるまとまるなさんがNさんの認知症を知ったのは診断後3年経った2021年。きっかけはNさんが役所に出す書類にひらがなで署名していたことだった。明るく認知症を発信するまるまとまるなさんだが、当時はショックで涙が止まらなかったという。 「当時はたまに会うだけだったので、かすかな違和感がありつつ、そんな大変な病気だとは全く気づきませんでした。2018年に姉は仕事を辞めています。認知症の診断が原因だったのだろうと思いますが、姉はその後、ものすごくはしゃいでいました。『そんなに仕事が嫌だったのか』くらいに思っていましたが、あれが涙の裏返しだったのかと思うと、可哀想すぎて、姉のことを考えては毎日泣いていました」 認知症が当事者はもちろん、家族にとってもとても大変な病気であることは間違いない。しかし、まるまとまるなさんは、おもしろかったことやうれしかったことに焦点を当てて描いていく。漫画を描こうと思ったきっかけは何だったのだろうか。 「姉はとても社交的で、たくさんのお友達がいます。認知症になって姉は変わってしまったわけではないけれど、多分連絡を取りづらくなるだろうし、私としてはその方たちにずっとお友達でいてほしいと思いました。それなら、姉の様子をお知らせしていけばいいんじゃないか、というアイデアが始まりです。もちろん丹野智文さんのような当事者発信がとても重要だと思っていたこともあります。認知症は確かに大変な病気ですが、偏見で誤解されているところもあります。仕事で4コマ漫画を描いたこともあるので『認知症になっても楽しく生きていこうよ!』と発信してみることにしました」 ■認知症になっても姉の本質は変わっていない。社会活動への積極的な参加も まるまとまるなさんとNさんは、大人になってからは住む場所も離れ、たまに実家で会うくらいの交流だったそう。Nさんが認知症となり、近くでサポートをするようになった今、感じていることや、一緒に過ごすときに心掛けていることについて聞いた。 「一緒に散歩に行くと、とにかく姉の知り合いによく会うし、すぐ知らない人に話しかけるし、ものすごく社交的な人だったと思い出しました。noteでも姉がチャーミングだというコメントをよくいただきますが、本当にそう思います。今は話せないし、少々怪しい行動も増えていますが、姉の本質は変わっていないと思います。認知症の人の問題行動は不安感が原因となっているものが多いので、なるべく不安感を与えないように、と気をつけています」 漫画には、Nさんとの日々に加え、当事者が発信する講演会やイベント、認知症の人や家族を見守るオレンジサポーターになったことも描かれている。姉のNさんのためはもちろん、認知症と社会について考えるきっかけに繋がっているという。 「情報収集のつもりでいろいろな活動に参加していますが、認知症が社会的に問題になっていること、自分もいつなってもおかしくないということを、ひしひしと感じています。それでも、当事者からの発信で社会が変わってきているのは確かです。姉のために、と思って始めましたが、実は自分が認知症になったときに困らないようにやっているんじゃないかと思っています。もともと私は全く社会性のない人間なのですが、近ごろは社会の一員としてよい社会を作っていきたいな、という気持ちが芽生え、自分でもすごいと思います(笑)」 今後の暮らしについて「変わらずたくさんの方々に助けていただきながら、もちろん自分も出来る限りたくさんの人を助けながら、日常生活をなるべく充実させて姉の笑顔を増やしていきたいと願っています」とまるまとまるなさん。認知症と向き合い、優しく明るく描かれる日常をこれからも見守りたい。 取材・文=松原明子